(執筆日:2009年07月18日)
お風呂に入って温まり、部屋着姿で自分の部屋へと落ち着いた。
使わなかった折りたたみ傘。でも、手に握ったまま走ったから、濡れてはいた。室内で折りたたみ傘を開き、タオルで水滴を拭いた。
迷惑だったけど、借りたからにはちゃんと返さなきゃ。
水滴は拭いたものの湿り気は残っていたから、開いた状態のまま床へと置いた。
私はベッドへと転がり込み、天井を眺めながらひとつため息をつく。
各務くんの思惑がわからない。
笑顔で親切に傘を貸してくれたのなら、まだわかる。でも無愛想だし、上から目線だし、人のことバカにしているような態度だし。そんな扱いで傘を貸されても、素直に喜べないよ。
なんか企んでるんじゃないかって、思っちゃうじゃん。
眉間にシワが寄ってしまう。いったいなんのつもりで傘を貸してくれたんだろう。
翌朝、みんなよりも早い時間に学校へ行き、各務くんの机の中に乾かした折りたたみ傘を入れておいた。みんなの目につくところで返したりすると、また何が起きるかわからない。用心には用心を重ねなければ。
みんなから聞いた話によると、各務くんはお父さんの仕事の都合で引っ越してきたらしい。これまで三年ほどアメリカに住んでいたんだとか。得意なスポーツはサッカーで、勉強もかなりできるらしい。理数系に強いという噂。英語ができるのかどうかは、まだ誰も確認していない。
いきなりガラッと教室の戸が開いて、私はビクッと飛び上がった。
慌てて振り返ると、入口に立っていたのは各務くんだった。先にいた私に気がついて、驚いた様子もなく視線を向けてくる。
「あれ? 早いね」
「……そっちこそ」
返事をしてから、マズイと思った。誰もいない教室で二人きり。みんなに二人きりでいたなんて知られたら大変だ。