(執筆日:2009年07月18日)
ドンッ!
と、いきなり背後から両手で突き飛ばされた。
「ずるーいっ。なんで葵は話しかけてもらえるのーっ? この傘、貸しなさいよ。あたしが借りるーっ」
クラスメートのユカリちゃんだった。
かなりテンションがあがってしまっているらしく、私の手から必死で折りたたみ傘を奪い取ろうとしてくる。各務くんが貸してくれたのは私へなのに、無事に返せないうちに誰かの手に渡ってしまうのはすごく危険だった。
「放しなさいよっ。あたしが借りるのーっ」
下手に渡してしまったら、きっと各務くんに返すことなく私物化してしまいそうな勢いだ。そんなことになったら、各務くんに怒られるのは私じゃないの。なんとしても渡すまいと、必死で折りたたみ傘を抱き締めた。
ちょうどそこへ、女子たちが数人集まってくる。いや、もしかしたらユカリちゃんと一緒にずっと見ていたのかもしれない。彼女たちは冷静で、自分を見失っているユカリちゃんを止めようとしてくれた。
「ユカリ、やめなよ。みっともないよ」
「やだーっ。やだーっ」
子供のように泣きじゃくりはじめた。そんなユカリちゃんをみんなで羽交い絞めにして、目配せで私に行けと示してくれる。
「みんな、ありがとーっ!」
ようやく自由の身になった私は、慌てて土砂降りの中を駆け出した。
折りたたみ傘を借りた意味がまったくないよー。
なんで私がこんな目に。各務くんのバカバカバカ。なんで傘なんか貸したりするのよー。
女同士のいがみ合いってすごく怖いんだからーっ。後先考えないで、勝手に貸したりしないでよーっ。これをきっかけにユカリちゃんから嫌われたら、どうしてくれるのよーっ。
私の中の恨みつらみは各務くんへと向かった。迷惑。本当に迷惑。変な気まぐれなんか起こしてくれたばっかりに、ものすごく迷惑!
結局、私は傘をさすことなく、ずぶ濡れ状態で家へと到着していた。