(執筆日:2009年08月16日)
私と各務くんがもめていても、オルドは気にすることなくさっさと歩いて行く。
慌てて私たちも後を追い、じきに町の入口へと着いた。
間近にいる厳格な鎧は、見ているだけでも寒気が走る。平和な日本にいた頃には縁のなかった、本格的な戦闘態勢。手に持っているのは槍だった。
オルドが身分を証明する、札のようなものを取り出した。その表面に刻み込まれている紋章は、いったい何を意味しているんだろう。
威嚇するように口を開けた猛獣を取り巻く、燃え上がるような炎。
鎧を着ている二人の番人は、チラッとそれを見ただけであっさりと道を開けた。
オルドに続きながら門をくぐり、町中へと入る。
入り組んだ道、雑多に並ぶ建物。小さな町だけれど、その中心には一際大きな建物があった。
「治安が悪いわりに、随分あっさりと入れたな」
各務くんが不思議そうにそんなことを言う。
オルドは振り返らないまま返事をした。
「すでに顔見知りだからな。私がこの町に訪れてから、ひと月は過ぎている。住人には悪いようにしない」
「でも俺と北丘は住人じゃない。それに、治安が悪いなら、ひと月しか住んでいない人間をそう簡単に信用するかな?」
「初めに言っただろう。懇意にしている権力者がいると。その者の力が働いているんだ。私自身が信用されているわけではない」
「……なるほど」
各務くんは納得した素振りを見せたけれど、まだ何かを考えている様子だった。
私はそんな各務くんに声をかけた。
「カバン、持ってくればよかったね」
「カバン?」
「中にね、防犯グッズが入ってたの。夜道は危ないからって両親が持たせてくれたものが」
「……現代日本の防犯グッズが、この世界で通用するかどうかは謎だけど。携帯電話もそうだけど、あんまり変なもの持ち込んできちゃうと、異端の目で見られる原因になるよ」
各務くんの言葉が、重くのしかかってきた。異端の目。ここが私たちの住む世界とはまるで違うということを、苦しいほど痛感した。
(未完・ここまで)