(執筆日:2009年08月04日)
「俺たちの住んでいた世界が本当になくなったのかどうかは、後で確認できる時にすればいい。今は俺たちの衣食住をどうするかのほうが先決だろ。見ろよ、俺たちは今こんな森の中にいる。ベッドもなければ毛布もない。風呂だって冷蔵庫だってない。家族が無事かどうかを確かめる前に、自分たちの心配をするほうが先なんだ」
各務くんの言葉を聞きながら、私は空を見上げた。夜の八時頃のはずなのに、木々の葉の向こう側には太陽の光。
今は、昼間だった。
「ゴホン」
オルドが急に咳払いをした。
「混乱するのも無理はない。今すべてを説明してみたところで、どうせ理解はできないだろう。しばらく経てば徐々にわかってくる。ここがどんな世界で、我々が何をするべきなのかを。己の正体もそのうちわかってくるはずだ。衣食住については、当分は心配ない。この森を越えたところに、私が世話になっている宿がある。幸い、エディシアス帝国の連中には私の居所は知られていない。奴らは今、地球と呼ばれる世界の破壊と同時に、鍵も消滅したと思っているだろう。おそらく当分は気づかれないはずだ」
地球と呼ばれる世界の破壊……。
世界の破壊って、地球ごと破壊したってことなの?
そんなことできるはずがない。
呪術師たちの呪い?
そんなもので?
地球ごと破壊?
ありえない話。そんなの私、信じない。信じないんだから。
「まずは森を出よう。案内する」
オルドが軽くあごをしゃくった。ついて来いということらしい。
各務くんが立ち上がった。腕にもすり傷がある。
「北丘、行くぞ」
手を引っ張られた。不安ばかりのこの場所で、私は各務くんの手しか頼りにできるものがなかった。だからすごく安心した。一人じゃないということに。