(執筆日:2009年07月29日)
崩壊していきそうになる。私のいた世界。
確かな世界だと信じていたものが、手のひらからこぼれ落ちる砂のように、心もとないものになる。
何が嘘で何が本当なのかわからなくなる。各務くんまでそんなことを言い出したら、私はいったい何を信じればいいのかわからない。
各務くんが携帯電話の電源を切った。ズボンのポケットへとしまう。
「……なんで、電源切るの」
「充電切れたら、もう二度と使えないよ。向こうとこっちをつなぐ、唯一の物のような気がするから、大事に使わないと。それでもいつか、切れて動かなくなる日が来るけど」
どうして各務くんはそんなに冷静でいられるの。
私はどうしたらいいのか、わからなくなってしまっているのに。
なんで、そんな風に淡々と喋っていられるの。
各務くんはまっすぐに私を見つめて、手をつかんだ。握手でもするように握られる。
「北丘。悩むのは後でもできる。今は、とりあえず前に進むことだけ考えよう。今必要なのは、たぶんそれだから」
私の涙腺はますます緩み、涙が止まらなくなってしまった。
「帰りたいって言っちゃダメってこと?」
「うん」
「現状に対応しなきゃダメってこと?」
「そう」
そんなこと言われても、どうしたらいいのかわかんないよ。
私は握られていないほうの手で、オルドを指差した。
「あの人の言葉を信じろってこと?」
「今はそれしかないだろ。こんな森の中で放り出されたら、俺たちにはどうすることもできない。ここの地理を知っているのは、あの人だけだから」
各務くんの言葉は説得力があって、全部が正論のように聞こえてくる。まるで私ひとりがワガママばかり言って、みんなを困らせているみたいだ。