(執筆日:2009年07月22日)
ふと、カバンが手元にないことに気づいた。右を見て、左を見て、地面を見た。やっぱりない。
血の気が引いた。
あのカバンの中には、携帯電話と財布と学生証が全部入っているのに!
空中にあった例の亀裂は、もう綺麗になくなっていた。きっと、あの向こう側に落としてきちゃったんだ……。
「……せめて、ケータイだけでもあれば」
「俺のでよければあるけど」
振り返ると、各務くんが上半身を起こしていた。私と同じようにカバンは手元にないけれど、制服のズボンのポケットから携帯電話を取り出している。
「でも、きっと使えないよ」
「えっ、なんでっ?」
「圏外になってる」
私は慌てて各務くんの傍へと寄り、携帯電話の画面を覗き込んだ。
本体の色はブラックで、待ち受け画面はカレンダーだった。実用性のみを重視って感じ。
「……ホントだ……」
携帯電話の画面には、圏外と表示されていた。私は周囲を見渡した。
そもそも、ここ、どこ?
鬱蒼と繁る木々に囲まれていた。森?
辺り一面、木、木、木。背の高い木々が大量に並んでいた。足元を見ると、草ばかり。地面には草と岩と石と砂。とにかく、周りには自然しかなかった。
空を見上げると、太陽らしき光が木々の葉の合間からかすかに見える。
音は木々のざわめきと、どこか遠くで聞こえる鳥か何かの声ぐらい。
「ここ、どこよ?」
「さあ?」
私と各務くんの視線は、見知らぬ美青年のほうへと向いた。彼は無言で立ったまま、私たちのやりとりを不思議そうに眺めていた。