(執筆日:2009年07月22日)
そして、その空間の歪みの中心に亀裂が入り、一本の腕が飛び出してきた。人の腕。
「ぎゃああぁぁっ!」
反射的に腰が抜け、その場に尻餅をついてしまった。
動けない。歩けない。とにかく怖い。
ぼ、防犯グッズ。防犯グッズ。いや、違う。こんなものじゃ役に立たないっ。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。もう頭の中はパニック状態。
歪みの中心からは腕だけじゃなく、胴体、頭もにょっきりと出てきた。うあ、美青年。いや、そこに着目している場合じゃないっ。
明らかな非常事態。逃げることも、叫ぶことさえも、もうできなくなっていた。頭の中は真っ白で、そんな余裕はまったくなかった。
見知らぬ青年は、見たことのない服装をしていて、手には剣を持っていた。わかりやすく言えば、中世のヨーロッパ、はたまた異世界ファンタジー。
地面へと降り立った彼は、まっすぐに私を見据えた。高い身長。切れ長の瞳。りりしい眉毛。意志の強そうな唇。そして、なぜか焦ったような表情。
いきなりガシッと私の手首をつかむと、強引に引っ張った。
「来いっ!」
「えっ、なんでっ!」
反射的に私は逆らった。つかまれた腕を必死で振りほどこうと頑張る。すると美青年は、すごく怖い顔で私を睨みつけてきた。
「死にたいのかっ、早くっ!」
私はもうすっかり涙ぐんでしまい、あまりの恐怖に竦んでしまっていた。どうして見知らぬ人に、連れ去られそうになっているのか。しかもなんで、こんな風に怒られなきゃならないのか。