(執筆日:2009年07月21日)
各務くんはホームルームが始まる前に戻ってきた。
いつも通りの授業、いつも通りの一日。
今朝、会話をしたのが夢か何かのように、各務くんは丸一日まったく関わってこなかった。目が合うことさえもなかった。
ユカリちゃんは昨日のことを根に持っているのか、見事なぐらいにシカトしてきた。きっとそうなるんじゃないかなって予想していたから、あんまり驚きも戸惑いもしなかった。ユカリちゃんのことだから、一週間ぐらい経てばきっと元の仲に戻れると思う。そんなに長く怒りが持続するタイプじゃないから。
放課後になると、私はバスケ部へと向かった。
私は信じていた。
この日々はずっと続くはずだと。
毎日学校へ行き、授業を受けて、友達と喋ったり遊んだりして、部活で汗を流し、家族の待つ家へ帰り、ゴハンを食べて、宿題をやって。
休みの日はオシャレして、友達と待ち合わせして、おいしい物を食べたり、可愛い服を買ったり、そんな当たり前の日常は普通に続くものだと信じていた。
もっと大事にすればよかった。一日一日を。両親のことも、友達のことも。勉強もバスケも。私という存在も。
いつも通りに部活動も終わり、すでに暗くなった道を私は歩いていた。相変わらずカバンの中には、活用されたことのない大量の防犯グッズが入っている。
街灯に照らされた道。空を見上げると、輝きの薄い星空。東京の空は薄い。もっと濃い星空が見たいのに。でも今夜は月が綺麗だった。丸まるの満月。
唐突に異変を感じて、私は足を止めた。
目の前の空間が歪んだ。私は目をすがめる。単なる勘違い。何かの見間違い。そう思いたかったのに、目の前の空間は確かに歪んだ。
空気がねじれたような。風がねじれたような。電磁波のような歪み。