(執筆日:2008年08月02日)
体育の授業で大活躍していた津王は、放課後になると何故か僕のほうへと寄ってきた。
「なぁなぁ多嶋、これからさみんなでカラオケ行くんだって。一緒に行く?」
「行かない」
速攻で冷たく答えると、津王がしょんぼりとした。
「女子五人、男子四人なんだよね、今」
「だから行かないつってんの」
カバンを手に席から立ち、僕はさっさと歩き出す。そしたら、いきなり腕をガシッと力任せに掴まれた。
「待てってば。なんでそう付き合い悪いかなあっ」
「そういうの好きじゃないんだよ。前にも人それぞれだって言っただろ。たまるの好きな奴らでたまってろよ。興味ない奴まで巻き込むな」
津王の腕を乱暴に振り払うと、ますます彼はしょんぼりとした。
「じゃあさ、じゃあさ、二人だったらいい?」
「は?」
「二人」
「誰と誰の」
「だから俺と多嶋の」
「……なんで?」
「だって大勢だから嫌なんだろ? じゃ、二人で遊ぼうよ」
「はあ?」
「いい? 俺、決めたからね!」
僕に向かってビシッと指を突きつけ、有無を言わさぬ勢いでそう告げると、津王はカラオケの約束をしていたと思われる連中の方へと向かっていく。
断ってるのか謝ってるのか、距離があったから聞こえなかったけど、なんか予想外の事態になってて僕はちょっと焦った。
確認しよう。
僕はどっちかっていうと、津王を邪険にしている自覚がある。
遠ざけたいから冷たく当たってる自覚がある。
なのになんであいつは、ますます寄ってくるんだよ?
「カラオケ断ってきた。じゃ、行こか」
笑顔で戻ってきた津王は、いきなり僕のカバンを持ってさっさと歩き出した。
慌てた僕はついていくしかなく、深い深い吐息をついた。
「おまえさ、いったいなんなの? メールは送りつけてくるし、やたらと寄ってくるし。僕は一人が好きなんだって、言ったと思うけど?」
「だってそんな人生つまんないじゃん。俺たちまだ高校生だよ? もっといっぱい遊んで、もっといっぱい食って、もっと人生エンジョイしなきゃ!」
「だからそこに僕まで巻き込むなつってんの」
「やだ。巻き込む」
津王はガキが駄々こねるみたいな口調でそう言って、僕のカバンを拉致したまま歩いて行く。
もう、なんなんだよこいつは。
僕はため息をつくしかなかった。
(未完・ここまで)