青空の瞬間 7

(執筆日:2008年08月02日)

 翌日の体育の時間は、バスケットボールだった。
 津王はいつもと変わらない元気さで、クラスの連中と楽しそうに過ごしてた。僕はただ、そんな津王をぼんやりと眺めていただけで、誰とも喋ることなく隅っこのほうにいた。

 うちの高校は男女共学だけど、体育の授業は何故か男女別に行なわれる。二クラスの男子生徒たちだけ体育館へと集められ、女子は女子でどこかに集められて授業が行なわれている。
 体育教師が二人組みになるように指示してきて、生徒たちがごっそりと動き出す。余った誰かと組めばいいやと、なかば投げやりな気持ちでいたら、目の前に津王が現われた。
「一緒に組んでやろうか」
「なにその、組んでやろうかって」
 ムカつく言い草に、ちょっと腹が立った。
 津王は笑って、さらにムカつく言葉を吐き出してきた。
「いつも一人でいるから、こういうとき困るんだよ」
「困ってねぇし」
「ありがとうは?」
「ぜってぇ言わねぇ」
 そんなやりとりをした後、パスやドリブルの練習を開始した。十分ぐらい経った頃、二人組みは解消され、みんなで列になって交代しながらのシュートの練習が始まる。また十分ぐらい経った頃、ようやく授業内容がバスケの試合になった。
 二クラス対抗の試合になり、余った連中はコートの外に出た。津王はコートの中にいる。スポーツは得意みたいで、やけに張り切っていた。
 こんなに元気な奴が、今年の十月には死ぬなんて。
 信じられないし、考えられない。
 だけど事実だ。
 運命は誰にも変えられない。
 何度見たって同じだ。
 津王の寿命は変わらない。
 何かの間違いであって欲しいと、いくら願ってみたって無駄だ。
 僕にはどうすることもできない。
 ただ事実を事実として受け止めることしかできない。

 津王は味方のパスを受け取ると、速攻でドリブルを開始した。得意なのか慣れているのか、どんどん人を抜き去って気づけばゴール下。勢いつけて跳んだ瞬間、放たれるボール。狂うことなくゴールにボールが命中した。
 うちのクラスの連中から歓声があがる。
 めちゃめちゃ嬉しそうな笑顔で、クラスメートたちにVサインを送る津王。
 僕はただただそんな彼を、黙って見ていることしかできなかった。

つづく