青空の瞬間 6

(執筆日:2008年08月02日)

 あの日を境に、津王からのメールが頻繁に送られてくるようになった。
 僕は返信をしなかった。なのに津王は気にすることなく、今日あった楽しかったこととか、ちょっとムカついたこととか、色んな話を僕に送ってきた。
 否応なく津王の私生活を知る羽目になり、迷惑に思う半面で、今日はいったい何を書いてくるのかと楽しみにしはじめている自分もいて、正直困惑していた。

 学校へ行くと、津王はいつでも他の友達と楽しそうにしていて、特に声をかけてくるようなこともなかった。僕は僕でそのままにしておいた。いったい何のつもりでメールを寄越してくるのか、真意がわからないまま日々が過ぎていく。

 四月がもうすぐ終わろうとしていた頃、津王からまた新しいメールが来た。
『どうしよ。告白されちゃった。OKしたほうがいいと思う?』
 これまでは一方的に独り言が届いてきた。
 質問形式なのはこれが初めてだ。
 無視をしようと思って、なんとなく思いとどまる。
 何度かためらってから、僕は携帯電話のボタンを押した。
『好きにすれば? 自分のことぐらい自分で決めろよ』
 書き終わって、送信しようとして踏みとどまる。
 やっぱり破棄しよう。
 そう思ったけど、またためらった。
 さんざん迷った挙句、僕は送信ボタンを押した。
 送信画面へと切り替わる。
 一気に後悔が押し寄せてきた。
 なんで送信なんかしちゃったんだろう。
 でも送ってしまったものはもう、止められない。
 二分もかからないうちに、携帯電話がメールを受信する。
 開いてみると、やっぱり津王からだった。
『やっぱり断るよ。返信ありがとね!』
 妙にウキウキした絵文字と共につづられる、津王の文章。
 失敗したかもしれない。
 ちゃんとメールを読んでたことが、バレた。

 今年の十月三日。昼間の二時四十七分三十九秒。
 鮮明に脳裏に浮かぶ、その日時。
 この世からひとつの命が消える。
 なんで僕は、メールを返信してしまったんだろう。
 運命を変える力なんてないのに。
 僕はただ見えてしまうだけで、それを変える力なんて持っていないのに。
 苦しくなった。
 胸の奥に痛みが走る。
 だから嫌だったんだ。
 誰も好きにならないように生きようと、ずっと決めてたのに。

つづく