青空の瞬間 5

(執筆日:2008年07月31日)

「あーでも、喋ったらなんか楽になった。やっぱりこういうのは一人で溜め込んじゃダメなんだね」
 津王の声が急に明るくなり、すっきりした響きを漂わせ始めた。
 僕は津王の横で立ち上がった。
「元気になったみたいだから、帰るよ」
「あ、うん。つきあってくれて、ありがとーっ」
 元気よく手を振られてしまった。
 僕は苦笑しつつ自転車に乗り、そのまま敢えて一度も振り向かずに走り去った。
 ちょっとぐらいは振り向いてやったほうがよかったかな。
 なんて考えもなくはなかったけど、二人の距離がますます縮まりそうな気がしたからやめた。

 他人の寿命が見えるというのは、決して文字や数字で見えるというわけじゃない。
 相手を見た瞬間に、脳にイメージが飛び込んでくる。そして何月何日の何時何分に、その命が消えるのかっていうのが全てわかってしまう。
 ただ、何が原因で命を落とすのかまではわからない。
 その命が消えてなくなる。
 僕にわかるのはそれだけだ。
 幼い頃から僕は、ペットを飼うのを非常に嫌がった。父親と母親が、行きたくない僕をムリヤリ家から連れ出して、ペットショップへと向かったことがある。耐えられなかった。ショーケースの中にいる犬や猫が、いつまで生きられるのかすべて見えてしまう。確実に僕より短い命。いつ死ぬのかわかっているのに、愛情を注ぐなんてつらい行為は、僕には耐えられなかった。
 泣いて嫌がった結果、うちでペットが飼われたことは今まで一度もない。
 親からは「変わった子」という烙印は押されてしまったけど、後悔はしてない。
 自分を守るためなんだ。僕はそうすることでしか自分を守れない。

 もうすぐ死ぬ相手に、情は移さない。

 だから僕は、津王とは距離を置かなきゃいけない。
 近づいてしまったら、結果的につらくなるのは僕のほうだ。
 そう思っているのに。

 家に帰って携帯電話を眺めてみると、津王からメールが来ていた。
 ……?
 アドレス教えた覚えないんだけど。
『さっきはありがとね!俺復活したよ!』
 内容はそれだけだった。
 僕は返信せず、携帯電話を勉強机の上へと置いた。

つづく