(執筆日:2008年07月31日)
放課後になり、帰ろうと思って廊下に出ると、津王が他のクラスの女の子と楽しそうに喋っているところに出くわした。
昼休みの出来事なんて完全に忘れ去ったような笑顔。
あの二人の前を歩かないと、校舎から出られないのか。
考えると少し憂鬱な気分になり、教室の中へと戻った。無造作に自分の席へと座る。
ぐるぐると脳内で昼休みの記憶がまわる。頬杖をついた。
わざと傷つけた。
自覚はある。
けど謝る気はない。
近づいてきたあいつが悪いんだ。
仲良くなんかなりたくないのに。
しばらく待ってから廊下の様子を確認すると、いなくなっていた。
カバンを手に廊下へ出て、歩き始めた。みんなとっくに帰るか、部活動へと行ってしまった。ほとんど人なんか残ってなくて、妙にガランとした静かな校舎へと変わり果てている。
自転車置き場まで行き、自分の自転車に鍵を差した。ハンドルを握り、自転車を引いて歩いていると、校舎の影で人がうずくまるように座っているのを発見してしまった。
膝をかかえて座り込んでいたのは、見間違いようもなく津王で、ついさっき廊下で楽しそうに笑っていたはずなのに、今度は全然違う様子になってる。
会いたくないと思ってると、余計出会ってしまうんだろうか。
激しく落ち込んだ様子で、しかもなんか泣いてる。
立ち止まって見ていたら、津王が顔をあげた。
ギョッとした顔になり、慌てたように手で涙を拭いまくりだした。
それから恐る恐る顔をあげ、伺うように問いかけてくる。
「……見た?」
「見た」
「俺、泣いてないよ」
そんな丸分かりの嘘をつき、袖を使って必死で顔を拭う。
「なんかあったの?」
冷静に問いかけてみた。
津王は小さく吐息してから、改めて顔をあげる。
「彼女に、ふられた」
「え、そんなことで泣いてたの?」
僕があからさまに驚くと、津王は少し頬をふくらませ、怒ったように呟いた。
「そんなことってなんだよ。俺にとっては重大なのっ」
「彼女ってさっき、廊下で喋ってた?」
「あれは友達」
「ふーん」
「ケータイの留守電に、メッセージ入ってた。もう別れたいって。俺もさ、もしかしたら合わないんじゃないかって、ちょっとは思ってたよ。でもこんな早く言われるなんて思ってなかった」
僕は自転車をその場に置き、津王の隣に座ってみた。
「どのぐらいつきあってたんだよ?」
「三週間」
「みじかっ」
「俺はもっと長続きすると思ってたんだよ」
「まぁ、ふられちゃったものはしょうがないよね。男は潔く諦めなきゃ」
「一人でひっそりと諦めようとしてたんだよ、俺は。なのに、なんで通りかかるんだよ、おまえは」
「知らないよ、そんなの。好きで通ったわけじゃないし」
距離を縮めたくないとすごく思っているのに。
なにやってるんだろう、僕は。
絶対に仲良くなりたくない相手なのに、どうして足を止めて喋ったりしちゃってるんだろう。