氷が床に落ちて砕けた。
まるでガラスの破片のようだ。
さわると冷たい。
小さなかけらを手のひらに乗せると、みるみる溶けてなくなった。
溶けた氷は水になり、形のない液体へと変貌する。
つかむことも、握ることもできない水に。
やがて蒸発して消える。
まだ床に落ちていない他の氷を、冷凍庫の中へとしまった。
ここから出さない限り、彼らは永久に氷のままだ。
形のない水のまま生きるのと、むりやり冷やし固められた氷として生きるのと、彼らはどちらのほうが幸せなのだろう。
そんなことを考えながら、グラスの中に氷がいくつか入っているジュースに、ストローをさした。
ストローをかき回すと、カランコロンと音がする。心地いい音色だった。
少しずつ、ジュースの中で溶けていく運命の氷たち。
彼らはその運命を嘆くのだろうか。それともジュースと共にあれることを喜ぶのだろうか。
溶けた氷をジュースと共に吸い込み、胃の中へとおさめていく。
やがてジュースはなくなり、氷も消えた。
END