(執筆日:2008年01月29日)
売り言葉に買い言葉。数分後、龍介は自分の発言を後悔していた。
「鬼。悪魔。エルクなんか大嫌いだ」
龍介の立たされている場所はモンスターがうようよいるような「漆黒の森」と呼ばれているところだった。
シャワーに放り込まれて強引に洗われた後、どこかに隠し持っていたらしいまともな装備を着させられ、あっと思う間もなくこの森へとワープさせられていた。
まともな装備とまともな武器はもらえたものの、戦い方の初歩すら学んでいない龍介に、この場所での試練は酷すぎた。
しかもついさっき犯されたばかりで、身体が思うように動かないのに。
「俺に死ねってことかよぉ。あーまた涙が……」
つらくなってきた。
「こんな思いばっかりするなら、もうゲームやめようかな。なんかいいことなんにもなかった……」
エルクの姿はどこにもない。彼からの指令は、この森の中にある魔法のキノコを取って来いというものだった。アイテム製作に必要らしい。
「自分で取りに行けっつーの。なんでレベルの低い戦闘経験のない俺が……」
鬱蒼とした森の中へと足を踏み込んだ。どこからともなく不気味な音がする。ケモノの声、いやモンスターの雄たけびか。龍介の全身に鳥肌が立った。
「……帰りたい」
完全に怖気づいていた。
恐る恐る森の中を歩いていく。すると、いきなり先方からヒョウに似たモンスターが飛び掛ってきた。
「うわあああっ」
モンスターに向かって、赤い光の玉がぶつかった。魔法攻撃らしい。一瞬でモンスターが消える。龍介は腰を抜かした状態のまま、もう動けなくなった。
「……無理。俺には無理」
「情けねぇな。いいからとっとと取って来いよ。おまえが行くことに意味あるんだからさ」
どこからともなくエルクが現われた。おそらくずっと見張っていたのだろう。
龍介は反射的にエルクを睨んだ。