地図を持って自転車に乗った。夏生の手書きの地図は、わかりやすかった。
家を出たのは正午前の十一時。漕いで三十五分。目的のマンションがあった。
十階建てのマンションだ。でかいなー。
高級そうだ。家賃高いんだろうな。高村家は裕福だから、これくらいあっさり払えるんだろうな。
目的の階は五階。エレベーターであがって、すぐ隣の部屋。
あった。
高村秋人って書いてある。
呼び鈴を押した。
ドアはすぐに開いて、秋人らしい人物が出てきた。
「おう、夏生。いらっしゃい」
背が高かった。180は軽く越えていそうだ。
夏生は170程度だから、身長差は大きい。
背が高くても細身だから、大柄には見えなかった。
夏生よりも男らしい感じだ。さすが兄弟だな。顔はいい。
「久しぶりだなぁ。一月ぶりか?」
「そ、そうだったかな」
知らないよ、いつ以来かなんて。
「まぁ、あがれよ。たいしたもんはないけど、酒ならあるぜ」
未成年にすすめるか、おい。
でも興味はある。
自分で買ってまで飲んでみたことはなかった。だからすごく関心はある。
「飲もうかな」
「よしきた。それでこそ夏生だ」
ってことは……夏生はよく飲むってことか?
強いのかな。
秋人が台所から持ってきたのは、なんとウィスキーだった。
てっきりビールか何かを持ってくると思ってたのに。
「よし、飲むぞ」
「……まだ、昼だよ?」
ウィスキーはちょっと違うだろ。
「いいんだよ。飲むぞ」
注がれた。オレは酒初心者だけど、これは夏生の身体だから大丈夫かもしれない。
「一気に飲め。一気に」
グラスを渡された。
「い、いっき?」
そんな無茶な。
「そう。飲め、一気に」
「ちょっと待ってよ」
「いいから飲めよっ!」
怒られた。
怒った秋人はちょっと怖い。しばらくためらって、オレはグラスを口に近づけた。
強引な奴だなぁ。
「わかったよ、飲むよ」
しぶしぶ一気に飲んだ。
直後、クラッとする。
うおー世界がまわる。
「なんだよもう酔ったのか? 早すぎないか?」
秋人が戸惑い気味に言った。
「いつもの夏生なら、もうちょっと持ちこたえるのに」
くそう。夏生の身体でも耐えきれなかったか。
けど、本物の夏生はそんなに酒、強いのか?
ヘロヘロになったオレは、床に寝転がった。
身体が熱いー……。
胃が焼ける……。
「……夏生、色っぽいな」
「へ?」
何を言い出すんだこの兄貴は?
秋人はどこかしら照れた様子で話を続けた。
「おまえはいつも隙がないから、酔い潰そうと思ってウィスキー用意したけど、こんな簡単に潰れるとは思わなかったよなあ」
隙?
隙って?
そりゃ確かに夏生に隙はないけど。オレは違うぞ。
「そだ……用ってなに?」
完全に潰れる前に訊いとかなきゃ。
秋人は照れ臭そうに笑った。
「夏生の身体が恋しくなってな」
なにーっ!?
「こ、こんなことしなくたって……」
夏生は誰とでも寝るぞ。オレは嫌だけど。
「わかってるよ。こんなことしなくても言えば夏生が相手してくれることは。けどそれじゃあ嫌なんだよ。夏生はいつも余裕で、掌で遊ばれてるような気がしちまうんだ。俺だって優位に立ちたいじゃないか」
それで強い酒か。ちくしょう。
「冗談じゃない」
「え?」
オレは上半身起こした。
息があがる。
「そういう魂胆があって僕を呼んだのか。酒に助け借りてなんとかしようなんて甘いんじゃないか? こんなことしなきゃ、素直に寝てやってもよかったけど、気が変わったよ」
夏生の口調って真似しようとすると難しいかもな。
こんな風に言うかな、あいつ?
まあいいや。逃げるのがオレの目的だから。
「夏生?」
秋人が狼狽した。逆らうとは思ってもみなかったに違いない。
「帰るよ。他に用はないんだろう?」
「待て、夏生」
立ち上がるとクラクラした。駄目だ……床が揺れる。
「危ないっ」
秋人の声が聞こえた時にはすでに遅く、オレは思いきり柱にぶつかった。
ずるずると崩れ落ちる。
いてぇ。
抱き起こされた。見上げると、秋人がいる。
「大丈夫か、おい?」
「……あたまがガンガンする」
「当り前だ。すごい音したからな」
もう、起きあがれそうに、なかった。
力が入らない。
秋人に抱きかかえられた。その行く先は……。
「ちょ……待った」
「なんだ?」
「怪我人なんだけど……」
「あれくらいのことで死にやしないぞ。痛いだろうけどな」
ドサッとベッドに落とされた。
秋人がのしかかってくる。服を脱がされた。
「やだってば……やめろよ」
「色っぽい嫌がり方するなぁ。夏生じゃないみたいだ」
ぎくっとした。
秋人の手が、オレの身体をまさぐる。よく考えたら、夏生にやられた時、こんな風に撫でまわされなかった。くすぐったい反面で、変な感触だった。
「ほんとに……嫌だ」
身じろぎながらオレは懸命に抵抗した。けど、夢の中で動けなくなったみたいに力が入らない。
身体が異様に熱かった。酒のせいだ。変に敏感になってた。
「かわいいな、夏生は。仕込んだ甲斐があったよ……本当に」
なにっ。
こいつが夏生に変なこと覚えさせたのか!
「いつの間にか、どんどん先を越されちまったけどな。夏生は何をやらせても吸収がいいから……」
秋人の唇が、オレの肌をなぞった。背筋がぞくぞくと震えた。
思わずオレは唇を噛む。
さんざん肌を撫でまわされ、胸の突起をいじりまわされた。だんだん抵抗する気力もなくなってきたから、オレもヤバイ。
ふと夏生を思い出した。兄貴に会うと言ったら、意味ありげな顔をした時の。
『行けばわかるよ』
そういうことか。
熱くなった身体に降る愛撫は、やたらと気持ちよかった。秋人に唇を塞がれ、舌が入り込んでくる。強い酒でぼーっとした頭は、このままやられちまってもいいような気になっている。
念入りな愛撫がオレをおかしくさせていく。
「夏生」
秋人がオレの腕ひっぱって、ムリヤリ上半身起こさせた。何をするつもりかと思ったら、股間を指差して「やって」って言う。
……なにを?
戸惑って秋人の顔を見上げた。秋人の下半身は欲情しきっていない。中途半端だ。
てことは。
「やだ。やらない」
何をしろって言うのかわかって、オレは断わった。夏生だったらきっとやるだろう。迷いもせずに。そんなことはわかっていた。けどオレは夏生の姿だけど夏生じゃない。
「なんで」
秋人が心底から不思議そうに言った。それくらい、当然の約束なんだろう、この兄弟たちには。
「気が……乗らないんだ。だからやらない」
それくらいしか夏生が拒否する理由が見つからなかった。オレはただ単純に嫌なだけだ。男のそんなものを大きくしてやるなんて冗談じゃなかった。
しかもそれはオレをいたぶるためのものなのだ。
「夏生……なんでだよ。やれよ。いつもやるだろ」
「嫌だ」
「やれってば!」
ぐい、と秋人の掌がオレの後頭部を引き寄せた。嫌でも秋人の股間に顔が押しつけられる。なんて強引な兄貴なんだ。
「口に入れて」
顎をつかまれた。ムリヤリ喉に押し込められた。苦しい。
「いつもやってくれるだろう? 舌も使って」
そこまでしてやってる夏生に恨みが向かった。夏生さえそんなんじゃなかったら、オレだってこんな目に遭わなかったんだ。みんな夏生が悪い。夏生なんて大嫌いだ。
秋人の腰が動いて、嫌でもそれが口の中でスライドした。吸って、とか、舐めて、とか要求されるままやった。そうしなきゃ終わらないような気がしたからだ。
秋人のそれはたちまち大きくなり、固くなった。達する前にオレは解放された。
でも完全な解放じゃない。まだ次のことが待っていた。
足をつかまれて、下腹部の中心に今大きくしたばかりのものが当てがわれる。中に入って来た時、夏生に犯された時より苦しかった。壊されるかと思った。
「あああっ……!」
熱くほてった身体にその刺激は強烈だった。一度夏生にされた時に、どうされると気持ちよくなるのか知ってしまったから、身体が貪るように快感を求めた。
秋人は容赦なく、オレの中で動いている。突き上げられるたびにオレの喉は声が溢れて止められない。下半身どころか身体中が痺れて、意識が朦朧としてきた。
何度か意識が飛んで、いつの間にか気を失っていたらしい。
目が覚めた時には夕方だった。
オレは裸のままベッドの中で寝ていた。身体が重い。腰がだるい。
「よう、起きたか」
どこかから秋人が現われた。身体を横に向けて寝ていたオレを、覗き込むようにしてしゃがんだ。
「激しかったぞー。夏生は淫らだな。自分から腰動かしてたぞ」
嬉しそうだった。
そんなことした記憶はなかった。けど、これは夏生の身体だから、ありえないことじゃなかった。
「……明日、体育があるんだけど」
「見学でもしてろよ。体調がすぐれませんって言ってさ」
「ひとつ……訊いていい?」
「うん。なんだ?」
「何人とこんなことした?」
「へ?」
秋人がびっくりした顔をした。それから照れ笑いに変化する。
「男は夏生だけだよ」
「女の子は?」
「うーん……十人くらいかなあ」
……なるほど。夏生とは大違いだ。
「夏生は? どうなんだよ?」
好奇心丸出しで秋人がからかい口調で訊いてくる。
「うん……数えきれないや」
詳しい人数を夏生から聞いたような気がするけど、忘れてしまった。
でも事実、夏生は大量の人間とこんなことをしたのだ。
「それにしては初々しい反応だったなあ。この前の夏生と違ってた」
不思議そうに秋人が呟いた。オレはちょっとギクっとしたけど、素知らぬフリをした。
「……疲れたな……このまま寝ちゃいたい」
「なんなら泊まって行くか?」
明日学校さぼれるなら、それもいいかもしれないと思った。
「明日の朝、ちゃんと起こして車で家に送ってやるからさ。泊まってけよ。自転車も積めるし」
……現実はそう甘くない。さぼれると思ったのに……。
その夜、オレは泊まることに決めたのだが、再び秋人に襲われる羽目になった……。
オレはすっかり諦めてしまって、秋人のいいようにされた。