天国の終末 20

 翌日、末田は律儀にオレの傍から離れようとしなかった。
 夏生が危険人物であることは承知してるから、油断はしてなかった。
 そんな風に真剣にオレのこと考えてくれる末田が嬉しかった。だからホントに、晴正のことはキッパリと諦めて、忘れて、末田の傍にいようかな、なんて考えた。
 やがて放課後になった。
 送ってくれると言ってくれた末田と一緒に教室を出ると、階段のところで夏生が待っていた。
 目が合ったけど、夏生は何も言わず、ただ帰ろうとするオレたちを見ていただけだった。
 逆にそれが怖い、夏生の場合は。
 絶対になにか企んでいるから。
 オレと末田は靴を履き替えて、校舎から出た。
 門の前で一台の車が待っていた。思わずオレは末田の背中に隠れた。車内には夏生の兄、秋人が煙草を吸いながら待っている。
 車の中なら、オレに気づいても走っては追いかけられない。車の入れない道を走ればどうにかなる。そうオレが思って末田の耳にささやいた時、背後からぐいと腕を引っ張られた。
「逃がさないよ」
 夏生の声が聞こえたかと思うと、右手首のところでガシャンと音が鳴った。手を見ると、前に見たようなオモチャの手錠がはめられてあった。鎖の先にあるのは、夏生の左手……。
「また、おまえっ……!」
「末田くんだったっけ? しばらく勝馬を借りることにしたから」
 オレのことなんか無視して、夏生は末田を見ていた。末田は慌ててふたりを繋いでいる手錠をつかみ、外そうと躍起になった。
「鍵がなきゃ外せないよ」
 夏生は笑って、秋人の車の方へ振り返った。いつから気づいていたのか、秋人はこっちを見ている。ドアを開けて車から出ると、まっすぐ歩いて来た。
「きみが勝馬くん?」
 手錠を使ってまでつかまえてるのに、他の誰だと思うんだ。
 オレは夏生と秋人の両方を睨みつけ、返事をしなかった。
 長身の秋人が目の前に立つと、末田が少しひるんだ。
 夏生がオレをひきずるように連れて行こうとする。末田がそうはさせないとオレの腕をつかんで粘った。その間に秋人が入り、オレから末田をはがした。
「あっ……」
 末田から引き離されたオレは、夏生に引っ張られるまま車の方へとひきずられた。秋人は末田の足を阻ませながら、オレと夏生の注意を払っていた。
 夏生も秋人も、みんなの視線なんか全然かまわない。こんなの誘拐と一緒だからオレが何か叫ぼうと口を開きかけたら、夏生の方が先にオレの耳元で囁いた。
「助け求めたりしたら、こないだの写真バラまくからね」
 オレは凍りついて、抵抗できなくなった。そのまま夏生に車の中へ押し込まれた。オレたちの様子を見ながら末田を制していた秋人は、いくらかの金を末田に押しつけて戻って来た。
「な……なんだよ、あの金は」
「口止め料に決まってるだろう?」
「ふざけるなっ。末田があんなの素直に受け取るわけないだろっ」
「見てみなよ」
 夏生がうながした。
 末田は何枚かの現金を手にして、困惑していた。戸惑うように車の中のオレを見て、足を踏み出しかけて止めた。
 なんで助けてくれないんだ。そんな金、投げ捨てろよ。
「末田の家庭事情おしえてあげよう。彼の父親が働いていた会社が最近倒産してね、今は母親だけの給料でなんとかしているそうだ。父親は求職中だけど、これがなかなか見つからない。家のローンも車の支払いも残っている。貯金は残っているけど、どんな形であれ、金が入れば有難いという状況だ。人間、本当に切羽詰まるとワラにもすがるからね」
 オレは驚いて夏生を見つめた。
 末田のそんな家庭状況なんて、まったく知らなかった。
 だってあいつ、そんなこと言わないし。
「だから彼には僕たちを止めることはできない。この状況を見逃したところで、勝馬の命が危なくなるわけじゃないしね」
 オレは力が抜けて、後部座席にもたれた。戻って来た秋人が車を走らせる。末田を通り過ぎて車はさらに進んだ。
「……どこに行くの」
「秋人の家だよ」
 確か……秋人は十階建てのマンションの五階で独り暮らしをしていた。
「そこで、なにするつもり」
「いいこと」
 夏生はそれしか言わずに黙ってしまった。秋人も喋らない。自然とオレも口をつぐんだ。
 車はマンションの駐車場へと入って行った。オレは夏生と手錠で繋がったまま車を降り、秋人の部屋まで連れて行かれた。
 部屋に入ると秋人がドアに鍵をかけ、さらにチェーンをかけた。オレは夏生にひきずられるまま、部屋の奥へと進んだ。夏生がベッドに座ると、必然的にオレも座った。
「久しぶりだろう?」
 夏生が秋人に聞こえないように囁く。オレが返事をしなくても、かまわないみたいだった。
 こんな異常な状況にもかかわらず、秋人はキッチンへと入って行く。
「なにが飲みたい? リクエストしろよ」
 秋人が訊いた。
 そういう場合じゃないだろ。
 オレが黙っていると、
「飲みたいものは?」
 今度は夏生が訊いてきた。
「ないよ」
「じゃあ、なんでもいいからアルコール欲しいな」
 夏生が秋人にリクエストした。
「できるだけ強いやつ」
「オッケー」
 オレを酔わせるつもりだろうか。
 秋人は何かのビンとグラスを三つ持って戻って来た。
「ブランデーでいいか?」
「いいよ」
 小さいテーブルの上で、秋人はグラスにビンを傾けた。それを夏生に渡すと、夏生はオレの口へ持ってくる。
「飲みなよ」
「いやだ」
 オレが断わると、夏生が不服そうな顔をした。次の瞬間、ぐいっと自分で飲み、オレの顎をつかんだ。唇が重なり、舌でこじ開けられ、大量の液体がオレの喉に流れてきた。
 胃の中が熱くなった。夏生は何度か同じことを繰り返し、オレは何度もブランデーを飲まされた。
「ねえ、鍵は?」
 夏生が秋人に向かって訊いた。
 秋人はズボンのポケットから鍵を取り出し、夏生に渡した。その光景をぼんやりと眺めていたら、鍵はオレたちを繋いでいるオモチャの手錠に吸い込まれた。
 手錠が床に放られた。夏生は雪崩れ込むようにオレをベッドに押し倒した。身体をまさぐられ、制服を脱がされる。
「夏生……っ、やだっ……」
 オレがじたばたしても、夏生は続けた。もう酔ってしまったのか、身体がふにゃふにゃして言うこと聞かなかった。シラフの時でも夏生にかかると負けるのに、酔ってたらますます勝てない。
 秋人の視線が突き刺さった。オレは夏生を押し退けようとしたけど、逆に押さえ込まれた。
 首筋を夏生の舌が這い、足が絡まってきた。
「あ……」
 知らず知らずのうちに声が出た。執拗なほど胸を攻めたかと思うと、夏生の手はオレの下半身へと移動した。
「夏生、次はオレな」
「了解」
 秋人との言葉のやりとりが聞こえた。何が次なんだろう。夏生とやる話なのか、それともオレ……?
 夏生とキスしてるうちに酔いがひどくなって、気持ちよくてたまらなくなった。夏生に触れられる箇所が燃えるように熱くなり、気がついたら自分から足を開いていた。
 夏生を中に受け入れると、ますます気持ちよくなった。ああ駄目だ。やっぱり夏生には勝てない。誘導されるまま落ちていく。
 秋人の視線すら気にならなくなり、オレは夏生と絡み合った。その間は夢にうかされてるような気分で、身体が溶けそうなくらい感じた。
 気がついた時には夏生の身体が離れていた。思わずオレは、求めるように腕を伸ばした。夏生は驚きもせずにオレの上にかがみこんで、念入りなキスをした。
「すごいな、夏生」
 秋人が感心したような声で言った。
「その子、夏生がいないと生きていけなくなるんじゃないか?」
「だってそうなるようにしたのは僕だよ」
 オレを抱きしめながら夏生は答えた。自信に満ちている。
 温もりが気持ちよくて目を閉じた。額に頬に、キスが降って来る。
 しばらくして、夏生が離れた。
 代わりに乗って来たのは秋人だった。オレは一瞬こわばって、目で夏生を探した。夏生はすぐ傍で服を着ながら見ていた。
「どうしたの?」
 わかってるくせに、夏生は意地悪だった。秋人の手が身体に触れて、オレは慌てて抵抗する。
「やめろよ……っ」
「夏生はよくて、オレはダメか? 悪いけど、きみの意見は聞かなくていいって夏生に言われたんだ」
「オレが嫌だ。やだっ……」
 夏生のせいで敏感になってた身体が、秋人の指にも反応した。夏生に男同士の行為を教えただけあって、心得た手の動きだった。
「ずいぶんと敏感な子だなぁ」
 感心したように秋人が呟く。
 感じるツボはすぐに見つけられてしまった。弱点ばかりつつかれて、オレが降伏するのはすぐだった。傍で夏生が見ている。それだけでもオレの身体はますます敏感になった。
 オレの中で秋人が動いた。夏生とは少し違う感触。
「あっ……ああっ……」
 突き上げられながらオレは夏生を見た。じっと注がれる視線。ただ見てるんじゃない。夏生の目は、オレを犯していた。秋人にやられながら、夏生にも犯されていた。
 だんだん気持ちよくなってきた。このまま快楽の底に沈んでもいいような気にもなった。夏生と秋人に永遠に犯され続けてもいいとすら思った。
 何度も頭の中が真っ白になり、気がつけば終わっていた。
 裸のままベッドで寝ていたオレは、テーブルの傍で相談してるらしい秋人と夏生を見やった。
 ……なんの相談だろう?
 オレに気づいた夏生が、こっちに来た。ベッドの縁に座ると、すかさずキスしてきた。夏生と舌を絡めながらボーッとしてると、ガシャンと手首に何かがはまった。
 見ると、また手錠だった。夏生の顔を見ると、楽しい遊びでも思いついたような表情だ。
「……夏生?」
「きみにはしばらくここにいてもらう。逃げ出せないように、つかまえとくから」
「え……?」
 意味がわからず、秋人を見た。誰も詳しい説明をしてくれない。
「どういうこと……?」
「明日からきみは休学。大丈夫、家にはちゃんと連絡しておくから、誘拐扱いにはならないと思うよ。事情はこっちで勝手に作ったから、当分の間は誰も疑問に思わない。ただ、心配なのは末田くんと……長沢かな」
 晴正の名前が出て、どきっとした。それよりも。
「なんだよそれ。オレ、そんなこと承知してないだろ。完全に誘拐じゃないか。オレ帰るからなっ」
 夏生を押し退けて起き上がろうとした。そしたら秋人まで来て、ふたりがかりで押さえつけられた。
「おいっ……犯罪だぞ、これっ……! はなせよっ」
「短い期間だけだよ。ちょっとした実験をするだけだ。きみがどうすれば、僕だけを求めるようになるか」
「どうすれば……って、素直に抱かれてるだろっ」
「心が求めてくれないとね。高村夏生を欲しくて気が狂いそうになる。そんな風に」
 ふたりがかりでベッドから降ろされて、風呂場に連れて行かれた。手錠の片方が、あらかじめ用意してある浴室に固定されていた鎖にはめられた。オレは戸惑いと怒りの狭間で夏生を見あげた。
「……なんだ、これは」
「しばらくここにいて欲しいんだ。前に言ったことがあっただろう。僕はきみを監禁したいくらい好きだって。閉じ込めて狂わせたいって」
「じ……実行するなよ、ほんとにっ」
「ひとつの実験だよ。きみはどうなるのか、僕はどうなるのか」
「兄貴の部屋なんだろっ。すげー迷惑だとか思わないのかっ」
「だって彼は僕の言うことなら、なんでもきいてくれるんだ。親だってここには来ない。こんなに安全な場所、他にはないだろう?」
 オレは絶句した。
 どこまで夏生は勝手なんだ。
「せっかく風呂場なんだから、ついでに身体を洗ってやるよ」
「断わる」
「遠慮することないよ」
 嫌がっても無駄だった。こんな状況じゃ、逃げられない。
 秋人は部屋に戻ってしまい、夏生とふたりきりにされた。夏生は一度着た服を脱いで、オレの前に立った。
 悔しいけど、やっぱり夏生は綺麗だった。
 シャワーのノズルをひねってお湯を出す。ボディシャンプーでオレの身体を洗いはじめると、今度は撫でまわした。
 身体中を撫でられて、気持ちがよくなった。夏生の身体が背中で密着する。手が前にまわり、胸から下へと移動していく。敏感な箇所を指が這い、開かれた足の間をまさぐった。すべりやすい指がオレの中に入り、動かされると自然に声が洩れた。
 しばらくして指が抜かれると、体勢を変えられた。動物のように四つん這いになり、夏生に腰をつかまれた。夏生は遠慮も容赦もなくオレの中に突き入れて、激しく動いた。
 何度も突き上げられ、頭がおかしくなりそうになった。このまま夏生と溶けてしまいたかった。壊されたいと思ってた気持ちがふいに蘇り、改めて夏生に抱かれてることに気がついて、だからオレは夏生につけ入られるんじゃないかって自分を責めた。
 最後に、オレから離れた夏生とシャワーの湯を浴びた。丁寧に身体についた泡を流し、余計なことまでする。オレの感じやすい部分にシャワーを当てて、夏生は遊びだした。
「ひとりでしてるところ、見たいな」
 ぎょっとした。
 今さら恥ずかしいことなんか何もなかったけど、改めてそんな注文をされるとドギマギとする。夏生は欲情しながらも冷静で、仕方がないから言われた通り、ひとりでした。
 夏生に見られながらのひとりエッチは、異様なほどオレを敏感にさせる。
「どう? 気持ちいい?」
「……うん」
 訊かれて、頷いた。
 夏生は指一本触れてこようとしない。それがまたじれったくて、気がつくとオレは誘惑でもするような仕種になってた。夏生に触られたかった。
 頂点に達して汚れた手を、シャワーで綺麗に流した。手錠は邪魔だったけど、動けないわけじゃなかった。最後の最後で夏生が触らないから、オレは少し欲求不満みたいになる。
 じれたオレは夏生に抱きついた。キスを求めると、あっさりと応じてくれた。濃厚なキスを繰り返して、オレは夏生と抱き合った。自分が狂ってることは自覚してた。夏生はこれ以上ないくらいの快感をくれる。だから一度火がつくと、それが欲しくて狂う。
 先にやめたのは夏生の方だった。
 シャワーを止めると、風呂場の外からバスタオルを持ってくる。それでオレの身体をくるみ、もうひとつのバスタオルで自分の身体を拭いた。
 濡れた風呂場のタイルまで拭き取り、完全に水気を取った。オレは自分の身体を拭いて、手錠につながれた状態のまま夏生を見つめた。
「……服は?」
「ないよ」
 夏生の答えは完結で、オレは焦った。
「ないって……そんな」
 夏生はさっさと風呂場から出て行った。用は済んだとばかりに。
「夏生っ。どこに行くんだよっ」
「僕は明日も学校があるんだよ。そろそろ帰らないとね」
「そんなの、ずるいじゃんかっ」
 夏生はかまわず部屋へ行ってしまった。風呂場におきざりにされたオレの位置から、部屋の中は見えなかった。
「ずいぶん激しかったな」
 秋人の声が聞こえた。
「聞いてたの? 悪趣味だな」
「嫌でも聞こえるんだよ」
「ちゃんと僕がいない間、食べさせてね。衰弱させる気ないから」
「わかってるよ。おまえがいない間、オレは何をしてもいいのか?」
「駄目だよ。当分の間、勝馬には僕だけ。僕しかいらない。もし、勝馬がいいと言っても、手出し無用。いいね?」
「ケチだな」
「秋人には僕がいるじゃないか」
 変な会話だった。
 オレは夏生以外の誰とも寝ちゃ駄目なのに、夏生はやっぱり自由にふるまう気なんだ。そう思ったら腹が立った。
 やがて夏生は帰り、部屋には秋人だけになった。放っておかれるのかと思ったらそうでもなく、秋人が風呂場に来た。
「夏生に手を出すなって言われたよ。惜しいなぁ、こんなにうまそうなのに」
「そんなにオレ、うまそうですか」
 変な質問。
 夏生が綺麗すぎるせいか、いまひとつオレのどこがいいのかわからない。目の前にいる秋人だって充分モテる容姿だ。夏生みたいな弟がいて、それでもオレをいいと思えるのが不思議だった。
 秋人が笑った。
「きみは、自分がどんな風に他人の目に映るのか、全然わからないみたいだな。夏生とは違うタイプで、整った顔だちして、充分いろっぽい。いまのきみを見て欲情しない奴がいたら、そいつは相当異常だ」
 だから、あちこちで犯される羽目になるのか。
 ……でも、夏生に会うまで、そんな目にあったことないんだけどなー……。
 秋人の目が、オレの身体を撫でていた。それに気づいて、オレは言ってみた。
「欲しいですか」
「え? ……ああ」
 秋人が困ったように目を泳がせた。
「夏生に駄目だって言われたからな」
「バレなきゃ、平気だと思いませんか」
「夏生の鋭さをあなどるもんじゃないな。あいつはちょっと並じゃない。それに夏生はきみを暇つぶしじゃなくて、獲物だと思ってるからな。無断で手なんか出したら、殺されかねないぞ」
 どうせ視姦してるくせに。
「どっちにしろ、オレに欲情してるんでしょう? 一度するも二度するも同じだし。食べたかったら、どうぞ」
「遠慮するよ。本当に夏生に殺されるから」
 そんな風に言いながら、秋人の目の色は変わらなかった。視姦は困る。居心地が悪い。これならまだ、手を出された方がマシだった。
「観賞されるのは苦手です」
「気にするな。もし身体が疼いたら、ひとりでしろよ。オレが見ててやるから」
「……いやです」
 冗談じゃないっ。
 なんでそんな姿見せなきゃならないんだよっ。
 秋人は、届かない位置に立っている。手錠で繋がれたオレが手を伸ばしたところで触ることなんかできない。べつにやりたいわけじゃないけど、このまま見られてるのも嫌だった。
 そんなことを考えてたら、秋人がズボンのファスナーをさげていた。自分のものをつかむと、刺激を与えはじめる。オレはぎょっとした。なんでオレの目の前でそんなことすんの、この人っ。
 オレが驚いて見ていると、秋人はますます熱中していった。
 オカズにされてる。
 見えないとこでやれよっ。
 秋人の息が荒くなった。裸のオレを見て欲情し、快楽のエサにしている。それを目の前で見せつけられて、オレはどうしたらいいのかわからない。
 手を出される方が、まだ対処しやすかった。
「勝馬……」
 名前を呼ばれた。秋人はジッとオレを見つめている。
「足を開いて」
「……えっ」
「見せて」
 心底から戸惑った。そんなこと言われても……っ。
 でも。
 座っていたオレは、ゆっくりと秋人に見えるように足を開いてみせた。ためらいつつも。なんだかストリッパーにでもなったような気分だった。恥ずかしい。
「指、入れろよ」
「……ゆ、指?」
「入れて、動かせよ」
 オレはしばらくためらった。相手に入れられたことはさんざんあったけど、自分で入れたことなんかない。それに自分じゃやりにくい。
「無理です」
「試してみるだけでいいから」
 戸惑いながらも、試みた。夏生の指だと思うことにして、中へ入れてみた。夏生がするように動かしてみた。
「ん……っ」
「感じる?」
 秋人に訊かれてオレは頷いた。
「どんな風に?」
 戸惑いながら秋人を見た。秋人はすっかり燃えている。夢中になってる、このやりとりに。
「……気持ちいい」
「どのくらい?」
 でも夏生にされる方がよかった。何をどうしてるのかわからないけど、夏生はやっぱりすごかった。夏生の真似をして動かしてみるけど、微妙に違う。
「少ししか……夏生の方が、いろいろ知ってるから。オレのどこがいいのかなんて」
「夏生にされてよかったところに触ってみて」
 どこだっただろう……。
 指を入れたり出したりしながら、空いてる手で身体をまさぐった。夏生に触られて気持ちよかったところ……。
 秋人の目にさらされながら、オレはそのポイントを指で辿った。「ここと……」口に出して説明してみる「ここも……」すると、どういうわけかどんどん身体が敏感になっていく。
「夏生は、キスがうまくて。それだけでおかしくなりそうなんだ。だけど、夏生はオレ以外の人とも簡単に寝るから、なんか納得いかなくて。……なんでオレのこと好きなのに、他にも目が行くんだろう。オレだけを見ててくれるなら、オレだって……」
 自分で何を言ってるのか、よくわかっていなかった。夏生が触るように自分の身体に触り、感じるポイントを刺激し、それを見ている秋人の欲情をさらにかきたてさせていた。勃ちあがった自分のを秋人のように刺激し、襲いかかってくる熱にうなされた。
「すごいな……見るだけなのがすごく惜しい」
 終わったころ、秋人がしみじみと言った。
 オレは、また汚れてしまった身体をシャワーで流して、秋人からバスタオルを受け取ったところだった。
「最初にやったくせに」
 夏生が抱いたあとでやったじゃんか。
「一度じゃ足りそうにないな」
 それは褒め言葉なのかどうか、よくわからなかった。
 少なくとも一回寝たら飽きた……ってわけじゃないらしい。
 いいことなのか悪いことなのか、やっぱりよくわからない。
「ねえ、オレずっとここなの? 布団で寝れないの?」
「快適にしたら監禁じゃなくなるだろ? 精神的苦痛も必要だって夏生が言い残していったぞ?」
 ……なに考えてんだろ、あいつ……。
「オレが降伏すれば済む問題なのかな。そしたら夏生もやめてくれるかな、こういうの」
「さあなぁ。オレにはそこまでわからないよ。夏生は複雑だから」
 確かにそうだけど……。
 裸で風呂場におきざりにされても、寒くはなかった。部屋の温度が快適なのかな。食事の問題はないとして……風呂場で寝起きするのは結構キツイ。
 あいつ最初、嫌がりながら抱かれる姿が見たいとか言ってたくせに……全然ちがうことしてんじゃん。なんで監禁の真似事なんだよ。

つづく