天国の終末 14

 嫌な予感ほどよく当たる。
 つくづくそう思い知らされた。
 朝、学校に着いて門をくぐった後、校舎に向かう前につかまった。脇腹の辺りにナイフを突きつけられて、大声あげて助けを求めることすらできなかった。
 人数は三人。
 坂西と仁科と片野……前に夏生にそそのかされて強姦に加わった奴らだった。
 オレを囲んでぴったりと身を寄せつける。そのせいでナイフが誰からも見えない。
「きょろきょろするなよ。バレるから」
「絶対だまってろよ」
 耳元ですごまれ、オレは怖くて抵抗できなかった。
 連れて行かれた先は体育館の裏だった。柵の向こうは鬱蒼と繁る森のような林のような木々が密集してる。だから誰にも目撃されない。
 ナイフを突きつけられたまま、口にさるぐつわを噛まされた。後ろ手に手首をハンカチか何かで縛られる。逃げないように身体をつかまれたまま。
 怖くてたまらなかった。
 また夏生の仕業なのか?
 晴正とよりを戻したから恨んで。
 でもどこにも夏生がいない。こんな場面でいないはずがない。だって夏生はオレのこういう姿を楽しむ人だから。
 仁科が目の前に立った。
「昨日、すごい話きいちゃったんだ。晴正とおまえと夏生の会話。最初さ、夏生がおまえを誘ってどこか行くから、気になってこっそりついて行ったんだ。俺、夏生のこと好きだったし。美術室でやってるとこも見た。途中で晴正が来たから慌てて隠れたけどな。でも……どうも話がおかしいんだ。夏生はおまえと中身が入れ替わったなんて話してる。……よく考えてみると、思い当たるんだよな。夏生はある時から違う人間みたいになってた。しばらく学校休んで復帰した頃だ。バイク事故ってその頃なんだろ? 逆に柚木勝馬は夏生によく似ていた。性質がな。そんなおかしな事あるはずないって思ったよ。でも思い当たることがあまりにも多すぎるんだ。てことは、あの時、体育倉庫で襲ったのはおまえだったのかなって。晴正と恋人関係になった夏生もおまえ。媚薬を盛られて俺と寝たのもおまえ。……違うか?」
 オレは固まったように動けなかった。全身が強ばったまま、ゆるゆると左右に首を振って否定する。仁科はオレの顎をガシッとつかむと、仰向かせた。
「ほぉら。性格全然違うんだもんな。体育倉庫で俺たちそそのかした柚木勝馬は、それはもうしたたかな奴で、隙のない奴だった。なのにおまえは隙だらけなんだよな」
 顎から首筋にかけて指でなぞられた。思わず目を閉じる。
「昨日、夏生にやられてる姿、すげー色っぽくてそそるんだ。夏生もいいけど、あいつは隙がない。いくらこっちが本気で好きでも、あいつがその気にならないと手も足も出せない。その点、おまえは簡単そうだよな」
 睨みつけることで抵抗を示そうとした。このままいいようにやられてたまるか。
「夏生は綺麗だけど、おまえは可愛い、かな。睨まれても全然怖くなねぇよ。夏生に徹底的に仕込まれたんだろ? その成果、俺たちにも見せてくれよ」
 制服のズボン越しに下半身をつかまれた。思わず身を縮めるオレを見て、三人が笑った。
「可愛らしい反応するよな。晴正にも見せてんだろ?」
 仁科の手が、オレの制服を引きちぎるように左右に引っ張った。ボタンがふたつ飛んで、地面に転がった。その下のシャツも同じように引きちぎられ、胸があらわになった。
「……キスマーク、見つけた。夏生のだ」
 嫌がるように声をあげたけど、くぐもって声にならない。ズボンのファスナーをさげられ、ズボンを膝までおろされた。下着の上から仁科の手が添えられ、ゆっくりと揉みしだかれる。
「ん……っ」
 敏感な場所に注がれる刺激に、身体が熱くなった。力が抜けてくずおれそうになった両側から、片野と坂西がムリヤリ支える。
 仁科がオレの胸にキスをした。強く吸われて思わず喉が震えた。
「んっ……ん」
 下着も膝までおろされた。身体の中心にある熱くなったものが三人の目にさらされ、オレはいやがるように身じろいだ。目の前でしゃがんだ仁科の口に含まれて、舌と指で愛撫される。頭が真っ白になった。
「気持ちいい?」
 耳元で片野が囁いた。オレは懸命に左右に首を振った。こんな奴らに感じてやりたくなかった。
 身体はオレの気持ちとは正反対に頂点まで達してしまった。オレの放ったものを仁科が飲んでいる。身体に力が入らなくて、両側から支えられなかったら倒れてるところだった。
 呼吸が乱れた。
「なんか……いいよな、こいつ」
 坂西が耳の近くで呟いたのが聞こえた。
「反応の仕方がすげーいい」
「体育倉庫の時のこと覚えてるだろ。あの時だってよかっただろ? あれって夏生じゃなくて、こいつだったんだぜ」
 仁科が立ち上がりながら言う。
「妙な感じするけどな。あれが夏生じゃなかったなんてさ。話聞いても信じられないけど」
 と片野。
「なんだっていいから早くやろうぜ。誰もこないうちに」
 坂西が急かした。
 支えられた恰好のまま、仁科の指が足の間に差し込まれた。丹念にほぐすように動きはじめ、嫌でもくぐもった声が洩れた。
「そんなにいいか?」
 からかうような声が耳元で囁く。やがて指が引き抜かれて、足を抱えられた。ズボンと下着はいつの間にかない。
 仁科が腰を押しつけてきた。身体の奥に圧迫感が迫る。
「んっ……!」
 背後でふたりに支えられ、仁科に足をつかまれてしまうと、宙に浮いたような恰好になった。そのまま深く突き上げられて、オレは必死で逃れようと身じろいだ。ここまで来て逃げられるわけなくて、仁科のいいようにされた。
 足音がいきなり聞こえたのはその頃だ。
「なにやってんの」
 驚いたような夏生の声が聞こえた。それで初めて夏生が無関係だったことを知った。
 驚いたのは三人も同様だったらしい。仁科は慌てたようにオレから離れ、片野と坂西の腕も離れていった。支えをなくしたオレは、その場にくずれた。
「勝馬」
 駆け寄って来た夏生がオレを起こそうとした。さるぐつわを外し、縛られた手首をほどいた。
「いったい何の真似だい、これは? 僕に無許可で」
 夏生が三人を平等に見渡すと、相手はうろたえた。まさか夏生が来るとは思いもしなかったのだろう。
「な……夏生だって、そいつが晴正とデキてて不満だったんだろ?」
 仁科が代表のように口を開く。夏生が彼を睨んだ。
「誰が誰とできてるって? こいつは僕のだよ。他の誰のものでもない。僕に許可なしでこいつに手を出すことは許さない」
「だって……っ、前に体育倉庫の時に、やれって言ってみんなを集めたのは夏生だったんだろう!」
 仁科が言うと、夏生が目を瞠った。
「……おまえらどこまで知ってる」
「聞いたんだ、昨日。夏生と柚木が喋ってるとこ。それから、晴正と三人で言い争ってたとこも。それでずっと考えて、ようやく意味がわかって……」
 仁科が懸命に喋っていた。夏生の緊迫感に圧倒されている。
「なるほど。そこまで知られたら観念するしかないな。それにバレようがバレまいが、今の僕にはどうでもいいことだしね。以前、体育倉庫でやれって言ったのは、彼に対する見せしめのためだ。あのとき勝馬は僕を裏切った。だから痛めつけただけにすぎない。それ以前に媚薬を盛ってきみにやらせた時も、彼にはさまざまな慣れと経験が必要だと思ったからだ。あの頃はまさか、彼が素直に僕を受け入れてくれるとは思いもしなかった頃だからね。勝馬はもう、セックスには十分慣れたよ。だからもう、他の手は必要ないんだ。あとは僕がいればいい」
 勝手な言い分だった。
 夏生は地面に落ちてるオレのズボンと下着を拾った。オレは急いでそれらを身につけた。そして夏生がオレの腕をつかみ、歩き出そうとした。
 だけどオレは夏生の腕を押し退けた。
「助けてもらっておいて悪いけど……オレは夏生に応えられない。晴正と……戻ったんだ」
 夏生が傷ついた目でオレを見た。ズシンと胸に重く何かがのしかかる。
「……そう。わかったよ」
 夏生はゆっくりと立ち上がった。それから三人の方を向く。
「邪魔して悪かったね。僕はこれで失礼するよ。勝馬のことは自由にすればいい。もう僕の知ったことじゃない。いっそのこと、殺してくれてもいい」
「……なつ……み?」
 そんな展開になるとは思わなくて夏生の腕をつかんだら、払い退けられた。
「好きにしてくれ」
 そう言い残して夏生は立ち去ってしまった。オレは茫然と夏生の後ろ姿を見つめていた。ぐいと肩を引っ張られ、驚いて振り向くと仁科だった。
「夏生の許可がおりたな」
 ぞくっとした。
「馬鹿だよな。せっかく夏生が助けてくれたのに」
 腕をつかまれ、引きずられた。そのまま地面に押し倒される。片野が上にのっかってきた。
「せっかくだから、いただくぜ」
 首筋に片野の唇が埋まる。逃げることは不可能だと、確信した。

 拾い集めた制服を着て、オレは体育館の外壁にもたれてぼんやりとした。
 ボタンがいくつかはじけて、なくなっている。どこかにあるんだろうけど、探す気力もない。
 夏生はあれから戻って来ない。完全に見捨てられたらしい。
 雨が降ってなくてよかった。
 こんな状態でこんな気持ちのまま、さらに雨まで降られたら最悪だ。
 クラスが違うから、晴正はオレが教室にいないことなんて知らないんだろう。たぶん、誰も教えてないと思うし。夏生は今、どんな気持ちで授業を受けているんだろう。
 ざまーみろ、とか思ってんのかな。
 こんな恰好で授業になんか出られない。帰ろう。
 立ち上がったら、よろめいた。うまく力が入らない。
「……少しは反省した?」
 いきなり夏生の声が聞こえて、心臓が跳ねた。
「……な、夏生」
「僕の気持ちを足蹴にするから、そんな目に遭うんだ」
 体育館の側面から夏生が出てきた。ずっとそこにいたんだろうか。
「天罰だね」
 目の前まで来て、オレの襟元に触れた。
「あーあ……ぼろぼろだ」
 体育館に身体を押しつけられた。夏生の顔が近寄って、オレの唇を塞ぐ。
「……」
 ゆっくりと夏生の唇が離れた。視線が絡む。
「抵抗、しないの?」
「……どうでもいい」
 投げやりに答えたら夏生が小さく笑った。
「そんな風に言いながら、きみの心は長沢にしかないんだろうね。今ここに長沢が現われたら、きみはまた嫌がったりするんだろう? なのに僕と二人きりの時には許してる。おかしいね」
 オレが黙ってたら、夏生が襟元を崩した。
「キスマークだらけだ。どれくらいやられたの?」
「……見てたんだろ」
「最後の方では声も出なくなっていたね。……辛かった?」
 頷いた。
「あれは僕にとっても予想外だったよ。まさか、入れ替わっていたことがバレるなんてね。普通はありえないことだから、あいつらなんかに考えもつかないはずなのに。納得されるなんて、いかにきみが僕になりきれていなかったかの証明だよ」
 夏生の唇が再び近づいた。
 濃厚なキスに、頭の中がくらっとする。
 襟を広げられて、夏生が唇を寄せた。キスマークの跡をなぞるようにキスをされる。
「あ……っ」
「……敏感だね。あれだけされて、まだ足りないの?」
「ちが……」
 左右に首を振ったけど、夏生は本気にしなかったらしい。
「足りないなら、補ってあげる。言って……どこが欲しい?」
「い……いらない……」
「うそつき」
 夏生が意地悪く笑った。
「もう反応してるよ……ここ。まだキスしかしてないのにね」
 ズボンの上から撫でられて、思わず目をつむった。
「……ちがう」
「違わないよ」
 ズボンを緩められ、夏生の手が入り込んできた。その手にまさぐられるにつれ、オレはだんだんと息があがっていく。
「な……なつみ」
 だめ……と声にならない声で告げて、夏生の手を押し退けようとした。けど、力が入らなくて、夏生の手に手を添えたような形になった。
 頂点に達して夏生の手の中に放った。その手を顔まで持っていき、夏生が舐めた。
「まだ大丈夫そうだ」
「……なにが……」
「まだできるってことだよ」
 下着ごとズボンを膝までおろされ、体育館の方へ向きを変えられた。夏生はオレの腰をつかみ、すぐに入ってきた。
「あ……っあぁ……っ」
 内部がまだ濡れていたから簡単に入ってしまう。痛みもあるのに快感も走り、身体が震えた。そうでなくても夏生には逆らえない。どんなにボロボロになって感じない身体になっても、夏生には反応するんだと痛感した。
「……勝馬。いいこと教えてあげようか」
 荒い息づかいのまま夏生が呟くように言った。
「長沢晴正がね、そこにいるんだよ」
「!」
「さっきからずっと……いるんだ」
 どこにいるのか目で探した。……わからない。
 夏生の嘘かもしれない。ほんとはいないのかも。
 そう思ってオレは探すのをやめた。
「あれ……? 抵抗しないの? ……そう」
 夏生のかすかな笑い声が背中に届く。壁に手をついたままオレは夏生のするままになって、終わるのを待った。
 やがてゆっくりと夏生が離れた。オレはその場に崩れた。激しく呼吸を乱したまま、体育館にもたれて座り込む。夏生が目の前にいた。
「勝馬……キスして。きみから」
 頭がぼんやりして何も考えられなかった。オレは言われるまま、夏生の唇にキスをした。
「もっと激しいやつがいいな」
「……よくばり」
 オレはもう一度夏生にキスをした。
 唇が離れると、夏生が意味ありげに横を向いた。その視線の先を追って、オレの身体は凍りついた。
「……晴正?」
 茫然と立ちすくむ晴正がいた。まさかオレから夏生にキスするなんて、思ってもみなかったような顔で。
 夏生は嘘なんかついてなかった。
「僕が呼んだんだ。次の授業の教科書の中にメッセージはさんでね。体育館裏に来いって」
「……なつみ」
「勝馬がどういう子なのか、見てほしかったんだ。きみはいつも長沢の前ではいい子になろうとするからね。僕としている時にどれだけ淫らか知ってほしかったんだ。僕が強制的に望んでるんじゃなくて、勝馬も求めてくれているってことをね。……勝馬は僕と同じなんだよって教えたかったんだ」
「……なつ……」
 声にならなくなった。
「勝馬は本当は僕のことが好きなんだ。そうじゃなきゃいけないんだ。僕に貞操観念のないのが嫌だというのなら、他の人と寝るのはやめてもいい。きみのことだけ見つめるよ。その代わり、浮気はいっさい許さない。だからきみは長沢のことは諦めて、僕の傍にいるんだ。……もしこの最後の通告で、きみがやっぱり長沢を選んでしまうというのなら、そして長沢がこんな淫らなきみでもいいと言ってくれるのなら、僕はきみに触れるのをやめよう。僕に抱かれることに慣れたきみが、それに耐えられるのかどうか、見守ってやるよ」
 選択肢は……あった。
 夏生を選ぶか、晴正を選ぶか。
 答えは……決まっていた。はじめから。
「オレ……どうしても晴正が好きだよ。この気持ちは曲げられない。夏生とは何回もこんなことしちゃったけど、オレは晴正がいい。晴正がこんなオレを嫌だと言わないでくれたら……だけど。夏生がいなくても、たぶんオレは……平気だ」
 夏生が衝撃を受けたような顔をした。それから静かに、
「……そう」
 と言った。
「後で必ず後悔するよ」
「しない」
「後になればわかるよ。絶対にね」
 何を根拠に言ってるんだろう。夏生のことは嫌いじゃない。何回も嫌いだって思ったけど。好きかどうかは……よくわからない。
 夏生は身なりを整えると晴正の方を向いた。
「今度はきみが選択する番だ。このまま勝馬と縁を切るか、恋人として復帰するか。もしきみが勝馬をいらないと言うなら、今度こそ僕がもらうから」
「……」
 晴正はじっと僕を見つめた。
「……もう二度と勝馬には触れないと誓えるか?」
「ああ、誓うよ」
 夏生が答えた。
「誰かに強姦させたり、苛めたりしないか?」
「しないよ」
「……勝馬のことが本気で好きなんだ。夏生には渡さない」
 ふたりの視線が合った。火花でも散るかと思った。
「……決定、だな。よかったね、勝馬」
 夏生がオレの頭を撫でた。そしてすぐに立ち去った。
 晴正と乱れた恰好のオレが残された。
 晴正はすぐに傍に来た。恥ずかしい恰好のオレの服を丁寧に整えてくれる。
 申し訳ないような気持ちでいっぱいだった。涙腺が緩んで涙が出てきた。
 晴正は何も言わずに泣かせてくれた。なんで泣いているのか、自分でもよくわからなかった。

つづく