危険な関係 1

(初出:旧サイト 執筆日:2000年04月30日)

 吸血鬼ってのがどんなヤツか、知らない人は意外に多い。
 牙があって太陽に弱くてニンニクが嫌いで十字架を怖がる。
 まっさか。
 冗談じゃない。
 血を吸うのは事実だけど、それ以外は全部ウソ。
 だって俺を見てみろよ。
 太陽の下でだって平気で動けるし、ニンニクの臭いだって平気だし、十字架なんかヘでもない。
 日焼けして健康的でスポーツだって得意なんだ。
 どーだ。すごいだろう!

 どん、と目の前に置かれたトマトジュース。
 俺は今フツーにガッコ来て授業を受けた後だった。
 昼休み、クラスメートの持田邦秋(モチダクニアキ)が、差し入れとばかりに置いたのだ。
「……なにこれ?」
「プレゼント」
「……なんで?」
 俺が実は吸血鬼だなんてことは内緒だ。誰にも言ってない。
「だって好きだろ?」
 なんの根拠があるんだか知らないけど、邦秋はまじめな顔で言った。
「ここに」
 俺の口の端を指差す。
「牙あるじゃん」
「これは八重歯じゃ、どあほ」
 内心ドキッとかしたけど、牙とゆーほど大袈裟でもない俺の歯は、八重歯ってことで誤魔化している。
 ペットボトルに入ったトマトジュース。これをどうしろと言うのだ。
 色は血に似てるけど、味も素材も全然ちがうだろーが。
「おまえ、ものすげーバッカじゃねぇの」
 わざわざ身を乗り出して俺は言ってやる。
 邦秋はぽりぽりと頭をかいて、へらへら~っと笑った。
「でもさ、俺見ちゃったんだよねー」
「なにを」
「おまえが血、吸ってるとこ」
 ドォキィッと心臓が跳ねた。そんな平和な顔でフツーのことのように話すか、てめぇは。
「なんだよそれ。いつ、どこで?」
 心配だからとりあえず訊いてみる。
 邦秋とは高校入ったばっかの時から気が合うけど、ボケてんだか鋭いんだかわかんない時があるのだ。
「昨日。おまえ猫の血吸ってたじゃん」
 ……げっ。
 マジ見てやがるよ、こいつ。
「いくらおなか減ってても、殺生はマズイよな~。だからこれ」
「…………殺してません」
 がっくりチカラ抜けて、俺はうっかり正直に言っちまったよ。
「殺してないの?」
 したり顔で邦秋が言った。
 ……しまった。誘導尋問だったか。
 こいつの平和な顔は、たまにカモフラージュなんじゃないかと思う時がある。
「殺さねぇよ。ったり前じゃん。だいたい俺、血ィ吸ってねぇもん」
「ふ~ん」
 納得したように邦秋が言った。
 けど、マジで納得したとは思えなかった。
 人間に噛みつくと大変な騒ぎになってしまうので、俺はいつも犬猫でガマンしている。
 当然、犬猫はおびえる。
 けど、吠えたり逃げたりする前につかまえる自信が俺にはあるのだ。
 ちょこっと血ィ吸えれば大丈夫だから、すぐに解放してハイさよなら。
 犬猫はみんな大慌てで逃げる、と。
 とりあえず、問題ナシ。
 机の上のペットボトルをどうしたものかと思いながら、目の前に立つ邦秋を見上げた。
「おまえさー。すげーカンチガイしてねぇ? もし俺がマジで吸血鬼でも、トマトジュースじゃ何の役にも立たねぇぜ?」
「駄目か? よく似てると思ったんだけどな~」
 ああ、筋金入りの大バカ者だよこいつ……。
「いいから早くメシ食っちまえ。それから、トマトジュースは半分飲めよ。俺こんなにいらねぇからな」
「へ~い」
 ようやく椅子に座り、邦秋は弁当を広げた。いきなりブワッと漂う臭いはニンニク……。
 俺の顔を見上げて、邦秋は意外そうな顔をした。
「あれ? 平気なんだ。……ちぇっ。つまんねーの」
「なんなんだよ、てめえはっ」
 つい俺はキレた。
 フツー、ここまでするか? だいたい、この現代日本に吸血鬼が本気でいると思うところが、こいつ間違ってる。……いや、いるんだけどさ。
「ユキちゃーん。やっほー」
 廊下から黄色い声がした。
 見ると、隣のクラスの山下宏美(ヤマシタヒロミ)が跳ねていた。
 ユキちゃんと言うのは俺のことだ。
 瀬川由幸(セガワヨシユキ)だからユキちゃん。
 女の子みたいで気に入らないが、文句言ってもやめないから、しょうがないかと思っている。
「デートの誘いなら断りなよ」
 邦秋が口を挟んだ。
「なんでおまえが決めんだよ」
 俺が邦秋に文句言ってる間に、山下宏美が教室の中に入って来た。
「ユキちゃん相変わらず可愛いねー。日焼けしたのは夏だから?」
「夏休みにサーフィンしてきた」
「きゃー。かっこいーっ」
 山下宏美がまた跳ねた。よく跳ねる女だ。
「ごはん食べてんのー? 食べてる姿も格別だねーっ」
「そお?」
 なんだかよく意味がわからない。
 あ。
 邦秋が不機嫌だ。
 仏頂面で黙りこくっている。こういう時は不機嫌なんだよな。
 山下宏美がキライらしいのは俺も知ってる。
 知ってるけど、これはあまりにも……あからさますぎないか?
「アキちゃん相変わらず、無愛想だねー。ユキちゃん一緒にいて楽しい?」
 こいつもまたズケズケ言うヤツだなー。
「普段は、無愛想じゃねぇぞ、こいつ。今だけ今だけ」
「ヒロミのことキライなんだー? わかるよ、そーゆーの」
 ジロっと山下宏美が邦秋を睨んだ。邦秋はまったく知らんぷりしてメシを食っている。
「アキちゃん、ユキちゃんのこと好きだから、ヒロミのことシカトすんだよ。やぁ~ねぇ~男の嫉妬。サイッテー。みっともなぁ~い」
「……なに言ってんだ?」
 うんざりしてきて俺は肩を落とす。
 こういう、男が男を本気で好きかもしれないとかいうの、なんで流行ってんだろう?
 俺にはわからない。
 女ってヘンな生き物。
「まぁいいやー。ユキちゃん、また今度ひとりの時に声かけるね。ばいば~い」
「ばいばい」
 元気に手を振る山下広美に、手を振り返した。
 視線を感じて邦秋を見ると、じーっと恨めしそうに見てる目とかちあった。
「おまえさ、あの女キライなの知ってるけど、俺の交友範囲まで入ってくんのよせよな。俺べつにあいつキライじゃないぜ?」
「血を吸いたいくらいに?」
「はぁ? なに言ってんだ、おまえは」
「どういう時に血を吸いたくなるんだ?」
 こいつまだ言ってるよ……。
 しつこいなー。
「だから、血は吸わねーの。おまえが昨日見たのは何かのカンチガイ。わかったか」
「はいはい」
 ……っ。納得してない。
 なんなんだ、この筋金入りのしつこさは。

 昼間、晴れてたくせに、夕方には大雨になっていた。
 傘、持ってきてないぜ。
「やっだなー。濡れて帰るの。風邪ひくしなー」
 玄関で俺がぼやいていると、邦秋が隣に並んだ。
「ユキ、俺、傘持ってるぞ」
「おおおっ。さすがだ邦秋っ」
 感激して抱きついた。邦秋が驚いたように身を引く。
「……んだよ。俺が抱きつくと嫌なのかよ」
「ち、違う。今の、心の準備ができてなくてさぁ」
 意味不明の言葉を吐きやがる。
「とりあえず、雨だからウチに来いよ。近いし。雨おさまるまでさ」
「そーだなー……」
 俺は承知した。邦秋の傘に入れてもらい、十分歩いた。
 男ふたり分が傘にちゃんとおさまるはずもなく、左側にいた俺は、左半分が完全に濡れた。
 同じように、右側にいた邦秋は、右半分が濡れていた。
 邦秋の家に着くと、カバンの中から鍵を出す。
「……誰もいねぇの?」
「共働きだし、ふたりとも出張中」
「へぇ。大変だな」
「慣れてるよ」
 ドアが開いた。
 なかなか立派な一軒家だ。
「うっわーびしょ濡れだよー。超サイアク」
「シャワー浴びて来なよ。着替え用意しとくから」
「サンキュー」
 カバンを邦秋に渡して、早速俺は風呂場に向かった。
 季節はほとんど夏みたいなくせして、雨が降ると異様に寒く感じる。
 シャワーの湯であたたまって、ついでにスッキリした。
 いつの間にかバスタオルと着替えが用意してあって、脱衣所に置いてあった。
 素直に俺はそれを着る。
「邦秋ー。出たぞー」
「ああ、うん」
 自分用のバスタオルと着替えを持った邦秋と入れ替わった。
 待ってる間、俺は邦秋の家の中を眺めた。
 綺麗に片づいてる。親が忙しいってことは、邦秋が綺麗にしてるんだろうか。
 あいつ意外と几帳面だな。
 邦秋がシャワーから出て来た。
「なんか飲む?」
「うん」
 邦秋の問いかけに素直に頷き、ダイニングキッチンの椅子に座った。
 トン、と目の前に置かれたのは、意外にもビールだった。
「おいおい未成年」
「べつに普通だよ。飲まない方が珍しいじゃん」
「そうだけどー」
「かんぱ~い!」
 勝手にカチンとビール缶をぶつけ、邦秋はプルトップを開けてごくごく飲んだ。
「トマトジュースよりこっちのがうまいね~」
「おまえが買ってきたんだろーが」
「今夜泊まる?」
 さらっと邦秋が言った。
「は?」
「大雨だし、面倒じゃん。泊まれば?」
「……そだな。泊まろっかな。家に電話してくる」
 邦秋の家の電話を借りて、友達のところに泊まると告げた。吸血鬼家系なんだけど、父方の遺伝だから、母さんは普通の人だ。
「材料いろいろあるからさー、何か作るね」
 電話を切って戻ると、邦秋がキッチンに向かった。料理なんかできるの?
「大丈夫なのか~? 男の手料理ってヤツ?」
 俺が茶化すと邦秋がへらへらと笑った。
「ちゃんと食えるもの出すってば」
「頼むぜ」
 やることなくなって俺はダイニングやリビングをウロウロした。なんとなく、テーブルに無造作に置いてある新聞を手に取り、眺めてみる。
「面白れェテレビないなー今日」
「痛っ!」
 いきなりキッチンで邦秋の声があがり、俺はギョッとした。
「どしたっ?」
 慌てて駆け込むと、邦秋の左人差し指から一筋の血が伝っている。
 どくんと鼓動が跳ねた。
「包丁で切っちゃったよ。いってぇ~」
 邦秋が苦笑している。
 俺は自分の血の気が引いていくのがわかった。
 見てはいけない。
「……ユキ?」
 血の筋を作った指をそのままに、邦秋が少し近づいた。
 反射的に俺はあとずさった。
 邦秋は一瞬自分の指を見てから、再び俺を見た。
「どうした、ユキ?」
 さらに近づいてくる。
「来るなっ」
「……なんで? これのせい?」
 わざわざ指だけ俺の目の前に差し出した。身体が反応しそうになって、俺は慌てて踵を返して逃げた。
「バカッ。早く手当てしろっ!」
 ダイニングキッチンのテーブルまで戻り、ハアハアと呼吸を乱しながら俺は身体の疼きを必死で抑えた。冷や汗がにじむ。
 邦秋の大バカ者。あんなものを俺の目の前に出すな。
 自制心が負けたら、飛びつくとこだった。
 本当は、犬猫なんかじゃ足りない。
 人間の血が、欲しかった。
「ユキ大丈夫? ちゃんと手当てしたから、もう見えないよ」
 すぐ傍で邦秋の声がした。ギクッとして振り返った俺は、まず最初に邦秋の怪我した指を見てしまった。
 絆創膏でくるんである。血の色は見えない。
「……大……丈夫。……うん、平気……」
「顔色サイアクだ。メシ食える?」
「しばらくすれば落ち着く」
「そう?」
 ……なんで邦秋はこんなに落ち着いてるんだろう。俺を吸血鬼だと疑ったくせに、危機感がまるでないのはどうしてなんだろう。
 しばらくしてテーブルに出された料理は、美味そうな匂いと見かけをしていたのに、俺の方の食欲が狂っていた。血に魅せられると味覚まで狂う。
 血が欲しくなってる。
 こうなると、なんでもいいから血を吸うまで、治らない。
「ユキ、食えそうになかったら、残していいよ」
「大丈夫。食べる」
 空腹は確かだから、ムリヤリ口に突っ込んだ。そんな俺を観察でもするように邦秋が見ている。
「……なに見てんだよ」
「顔色、よくならないね。俺、ユキが嫌がることしたんだね。ごめんね」
 ……謝られても、こっちが困る。
 どんな顔したらいいのかわからない。
「食べたら上に行こうか。俺の部屋そっちだから」
「……う、うん」
 食事中はシ~ンとしてた。俺のせいなのか、邦秋のせいなのかわからない。
 やけに気まずい空気になってて、こんなの初めてで、俺はすごく戸惑った。
 食べ終えて食器をキッチンに置いて、邦秋に誘われるまま二階にあがった。
 邦秋の部屋は六畳の広さの洋室で、床はフローリングになっていた。
 俺が先に入って、後から邦秋が入る。高校生の男の部屋にしては、小奇麗だった。
「すげぇな。ちゃんと片づいてる。おまえって几帳面なんだな~」
「そうかな?」
 さっきのことは忘れたように、邦秋が笑った。
「なんか聴きたい音楽とかある? いろいろあるんだよ。他にもマンガとか、ゲームとか」
「うわっ、すっげぇ……CDいくつあるんだ、これ」
 CDラックのような棚があり、そこにCDがいっぱい詰まっていた。手に取って眺めてみると、ほとんどが洋楽だった。
「すげー。かっけー」
 感動しながらCDのパッケージを眺めていたら、いきなり背後から怪我した指が出て来た。
「……っ!?」
 絆創膏が貼ってあったはずが、取れてなくなってる。止まってなかったとは思えないのに、新しい血の筋が出来ている。
 バタバタっと手からCDが落ちた。
 いつの間にか背後にいたらしい邦秋を突き飛ばし、俺は慌ててドアノブをひねった。
 ……開かない!?
「さっき鍵かけたよ。鍵、かかるんだよ、この部屋」
「……おまえっ……なに考えてっ……」
 どれが鍵だ。どういう仕組みだ!?
 頭がパニクッててわからないっ。
「ユキ、本当はこれ欲しいんだろ? だからそんな過剰反応するんだろ?」
「ちがっ……」
 腕をつかまれた。
「こっちおいで、ユキ」
「……な、なに考えてんだよおまえっ。おかしいぞっ」
 邦秋の手を振り払った。
 そしたら思わせぶりに血の筋を作る指を俺に見せながら、邦秋がそっと訴える。
「いらないの?」
 ごくっと喉が鳴った。
 誘惑だった。
 俺の弱みにつけ込んでくる。
「いいんだよ、飲んで」
 ふら……っと足が一歩邦秋に近づいた。
 邦秋がふわっと笑う。
「ここに座って」
 ベッドの上を示される。
 すとん、と操られたように、俺は座ってしまった。
「はい」
 差し出された指。俺は吸い寄せられたように、口を近づけた。口の中に広がる、甘い血の味。犬猫とはまるで違う、極上の味。
「……おいしい」
 考えるよりも先に口から出た言葉を聞いて、邦秋が満足そうに笑った。
 それから顔が近づいてきて、俺の唇にキスをした。
「……っ!?」
 反射的にのけぞった俺の肩をつかみ、ぐいと引き寄せる。抵抗しようと身体に力を込めた俺を押さえつけ、邦秋はさらに唇を押しつけた。
 唇が離れ、茫然と邦秋を見つめた。こんな時まで邦秋は平和な顔で、何事もなかったように笑う。
「ご褒美もらったっていいだろ? 血、あげたんだからさ」
「お……俺は望んでないっ。おまえが勝手にっ!」
「もっと欲しい?」
 目の前に、邦秋の左人差し指を出された。俺は何も答えられなくて、ジッと邦秋の顔を見ていた。
「その代わり、見返り求めるけど?」
「……見返り?」
「俺の言うこと聞いて」
 急に怖くなった。
「言うこと……って、なに? 俺に何させる気だよ?」
「言うこと聞いてくれないなら、もうあげないよ」
 ごくん、と喉が鳴った。
 血が欲しいと身体中で訴えてくる。それを俺は自制心だけで必死で押さえつける。目の前には誘惑。邦秋の血。何の抵抗もなく差し出してくる。
「……なに、すればいいんだ」
「ユキとセックスしたいんだ」
 仰天した。
 なに言ってんだこいつ……っ。
「俺……っ、やっぱ帰……っ」
 慌てて立ち上がろうとしたら、腕をつかまれた。
「帰ったら、もう二度と俺の血あげないよ。いいの?」
「う……」
 極上の味を思い出す。これを逃したら、たぶん一生味わえない。
「……ほんとに、くれる?」
「うん」
 ストン、と俺はベッドに座ってしまった。
「いい子だね、ユキは」
 邦秋が嬉しそうに笑った。俺の着ていたシャツのボタンをはずしにかかる。俺はやっぱり嫌で、逃げたかったけど、必死で我慢した。
 上半身を脱がされた。
 借りていた邦秋のズボンも、ファスナーをおろされた。心臓がバクバクと鳴り響く。怖い。怖くてどうしようもない。
「……俺、やっぱり……っ」
「かわいー。涙目になってる」
 邦秋は嬉しそうだ。
「大丈夫だよ。痛くしないよ」
「……ほんと?」
「うん」
 痛くなければいいという問題でもないけど、俺は俺で邦秋の血が欲しいという下心があるから、文句が言えない。
 邦秋も自分の服を脱いだ。俺の身体をベッドに倒し、首筋に唇を押しつけた。
「……チカラ抜いて。ガチガチになってるよ」
「だって……怖い」
「怖くないよ」
 身体がまさぐられる。俺はギュッと目を閉じて耐えた。
 邦秋の手と唇が、遠慮なく俺の上を滑る。マッサージに似た動きで、俺の身体を撫でまくっていた。
 少しずつ下へ移動していく邦秋が、俺の下腹部付近で止まる。すでに熱を持ちはじめてるそこに、邦秋が口をつけた。
「……っ!」
 びくっとした俺に構うことなく、邦秋は舌と指で俺を翻弄した。息が乱れる。身体がどんどん熱くなる。
「我慢しないで出していいからね」
 そんなこと言われても……っ。
 どんどん高みへと追い詰められ、俺は我慢できなくなって、果てた。
 喉を鳴らして飲む音が下の方から聞こえてくる。俺は急に恥ずかしくなって、逃げたくなるのを必死でこらえた。
 足を開かれ、膝を折り曲げられた。
 足を撫でさすられ、きわどい場所へと近づいていく。中心に指が触れた。
 ビクッとした俺が可笑しかったのか、邦秋が小さく笑う。
「大丈夫だよ。ちゃあんと痛くないようにするから」
 中に指が入ってきた。
「や……っ」
「すぐよくなるよ」
 指が俺の中で動いた。
 初めはただただ違和感だけがあった。痛いってことはないけど、すごくヘンな感じだ。
 気持ちいいとは思えなかった。
「どう?」
「……わかんない……」
 俺の中をこする指が少し位置を変える。とたん、身体がビクッと跳ねた。
 なんだこれっ!?
「ここだ」
「や……やだっ……」
 急に身体がヘンになった。慌てる俺が可笑しいのか、邦秋は楽しそうだ。執拗なほどその部分を刺激され、俺の喉からヘンな声が出た。
「あ……あっ」
 いつの間にか指の数が増えた。最終的に三本ぐらいの指が、俺の中を出入りした。
 さんざんいじられた後、ようやく解放してくれた。
 けどそれは解放ではなく、次の段階に移る準備だった。
 足をつかまれ、持ち上げられる。俺の中心にあてがわれた熱くて硬いもの。それが何かわかって、俺は慌てた。でも今さら慌てても遅い。
「ぁあっ……!」
 身体の奥にねじ込まれ、俺は声をあげた。痛くしないって言ったくせに、引き裂かれるような痛みが走った。
「全部入ったよ。……動いていい?」
 俺はぶんぶんと横に首を振った。もう何も考えられない。
 ぐっと邦秋が腰を引いた。動くなって言ったのに!
「いっ……!」
 ずんっとまた深く入ってきた。圧迫されるような感覚。
「ん……っ!」
 邦秋は遠慮のかけらもなく俺の中で動いた。どうしていいかわかんないまま、俺は声をあげた。
「……やっぱり。すごくいいよ、ユキの中」
 そんな風に褒められても、あんまり嬉しくない。
 最初の指でさんざん刺激されてたから、俺のそこはジンジンと疼いていた。その場所を邦秋のものがさらに刺激してくるから、想像以上の快感が直撃してくる。
 死ぬんじゃないかと錯覚するほど。

 ……どうやら、意識がどっかで飛んだらしい。
 はっきりしない頭のまま、そっと目を開けた。邦秋の顔が真っ先に目に入る。
「大丈夫?」
 優しい問いかけが降ってきた。
 俺はなんとなく、こく、と頷いた。
 下半身が痺れたような感じだった。俺の身体のような気がしない。
「はい」
 赤く濡れた邦秋の指が、俺の口に当たった。俺は何も考えずに口を開き、邦秋の指をくわえた。口の中に甘い味が広がった。気持ちよくて、俺は目を閉じた。
「おいしい?」
 邦秋の問いかけに、こくんと頷く。
「これからも、エッチと引き替えに飲ませてあげるよ」
 ……なんか俺、餌付けされてない?
 舌で邦秋の指の血を舐めとった。それを見ていた邦秋が笑う。
「すごい……色っぽい」
 ……そうかな。
 よくわかんないけど。
「なぁ……なんで俺としたかったの?」
 邦秋に訊いてみた。どうして俺なんだろう。
「好きだからだろ。他にないよ」
 当然だろうと言いたげな顔で、きっぱりと。
「俺が吸血鬼かもって思って、なんで怖くないの?」
「ユキだからだよ。当たり前だろ」
 根拠がどこにもない。
 邦秋の顔が近寄って来て、俺の唇を塞いだ。口を開けろと邦秋の舌が促したから、俺は観念して口を開けた。するっと邦秋の舌が入り込み、俺の舌をつつく。絡みつく。
 こうして俺たちの、危険な関係が始まった。

つづく