勇者になんてなりたくないのに 7

(初掲載日:2014年4月29日)

 それからしばらくは、魔物が現れなかった。やたらと出会うわけではないらしい。
「仲間になる予定の魔法使いに会えれば、旅はもう少し楽になるはずです」
 周囲への警戒を怠らないように視線を向けながら、シグマが告げた。
 ラムダの唇からため息がこぼれ落ちる。
「媚薬を作った魔法使いですか……」
「ご不満ですか?」
「あ、いや、そういうわけでは……」
 ラムダは慌てて左右に首を振った。
「彼の名はファイと言います。私と同じ二十二歳です」
「シグマさん、そんなに若かったんですね」
「何歳だと思っていたんですか」
「いや、だって……」
 性の営みが相当慣れていたから。そう言いそうになって、ラムダは口をつぐんだ。
「だって、しっかりしているし、剣だって強いし」
「剣技に関しては幼少時から訓練を積んできてますからね」
 シグマが得意げな顔をした。
「でなければ王も、私を魔王討伐の旅には出さないでしょう」
「そうですね。勇者が弱いのに、戦士も弱かったら、あっという間に死んじゃいますもんね」
 ラムダがのんきにそう言うと、シグマが厳しい顔で振り返った。
「弱さの上にあぐらをかかないでください。あなたには強くなってもらわないと困るんです。いつでも私が守れるとは限らないんだし」
「そう言われても……俺、農作業しかしたことないし」
「最終的に魔王と対峙するのはあなたなんですよ?」
「そう言われても……」
 詰め寄ってくるシグマに、ラムダは困惑する。
「だって俺、勇者になりたくてなったわけじゃないし」
「……そんなの、わかってますよ」
 シグマが苦しそうな顔をした。その表情に驚いて、ラムダは軽く目を見張る。
「わかってるけど、司祭の話によれば、魔王を倒せるのはあなただけなんです。私だって平和に暮らしたいあなたの望みを叶えてあげたい。けれど、これは使命だし、運命なんです。魔王を倒すまで、この旅はおわることができない。それとも、国王命令に逆らいますか?」
 ラムダは慌てて左右に首を振った。
「そんなことしたら処刑されちゃうんでしょ?」
「ええ。国王の命令には逆らえません。だからせめて、強くなってください。剣の稽古なら、私が相手しますから」
「……剣だけですか?」
 おそるおそるラムダが問いかけると、シグマは少しだけ頬を染めた。
「夜の相手もです」
 シグマは咳払いをしながら、前を向いた。
「夕暮れまでには次の街に到着するでしょう。着いたら真っ先に何か食べましょうね」
「はい」
 ラムダが素直に頷いたその時、いきなりリュックごと引っ張られた。
「…………っ!」
 咄嗟のことで声が出ない。背中から地面に倒れたラムダは、そのまま勢いよく引きずられた。
「ラムダ殿っ!」
 気づいたシグマが慌てて手を伸ばす。しかしラムダの引きずられる勢いは増すばかりで、止まる気配はなかった。リュックに入っていたはずの荷物が散乱した。どれも保存用の食料や生活用品ばかりだった。
 シグマは散乱した荷物には見向きもせず、ラムダを追って駆け出した。だが、どんどん距離を離されてしまう。人間の足では追いつかなかった。
 さんざん引きずりまわされたラムダの身体が、草むらの中でようやく止まる。細かい傷や打ち身で痛む身体、朦朧とする意識の中で、ラムダはぼんやりと目を開いた。リュックはすでにボロボロだった。
「おまえか、勇者と名乗る者は」
 声が聞こえてきて視線を向けると、そこには人の形をした魔物がいた。ゾクリとしてラムダは小さく震える。人の姿をしているが、明らかに人ではなかった。全身にまとっている空気がまるで違うのだ。
 面長の顔で、髪が長い。腰まである。そして真っ黒だ。戦闘に向いた衣類を身にまとい、腰には剣士のような剣を差していた。
「……だ、れ……」
 ガタガタと震えながらラムダが問う。魔物の男は、フッと笑った。
「その場から動けぬ魔王の代わりにおまえを探しに来た、魔王の分身にすぎない」
「……ど、して、俺を探しに……」
「おまえが勇者と名乗っているからだ」
「俺が名乗ったわけじゃ……っ」
「どちらでもいい。おまえが勇者なのには変わりない。おまえは魔王にとって不都合な存在だ。消えてもらう」
 男の手が、ガッとラムダの喉にかかった。絞め殺される、と思った瞬間、男の手が緩んだ。
「まだ力の弱いおまえをただ殺すのももったいないな。少し楽しませてもらおう」
「……え……っ?」
 男の手がラムダの身体に触れ、強引に起き上がらせた。そのまま顔を股間に近づけさせる。男は腰の辺りの布を緩めると、すでに猛々しく育っているものを引っ張りだした。
 ラムダの頭を掴み、さらに股間へと押しつける。
「……んっ」
 目的を理解したラムダは、必死で口をつぐんだ。しかし鼻をつままれ、呼吸が苦しくなって口を開けてしまった。その瞬間を狙ったように、昂ぶりを押し込まれる。
「あぐ……っ」
 その後はもうされるがままだった。がっしりと頭を掴まれたまま、男の腰が容赦なく動く。喉の奥まで犯されて、何度も吐き気に襲われた。生理的な涙が頬を伝い、意識も朦朧とし、だんだんよくわからなくなっていく。
 男が手を離すと、ラムダの身体がその場に崩れ落ちた。男は構わずラムダの身体に手をかけると、下着ごとズボンを奪い取り、躊躇なく腰を割り込ませた。
「ぅあああ……っ」
 慣らされぬまま突き入れられ、くぐもった悲鳴がラムダの口から溢れる。男はラムダの腰を強く掴み、力強く貫いた。
「……あっ、あぁぁっ、痛……っ」
「おまえ、初めてではないな」
 心外そうに男に言われ、ラムダは無意味に左右に首を振った。
「その無垢な顔に騙されるところだった。これまで何人の男をくわえ込んだ?」
「……違……っ」
 乱暴な抽挿に耐え切れず、ラムダは意識を手放しそうになった。シグマの時とはまったく違った激しさで、身体が壊れてしまいそうな恐怖さえ覚える。
「ラムダッ!」
 切羽詰まったようなシグマの声が聞こえてきた。殿がなく呼び捨てなのが新鮮だったが、ラムダは助かったと思うより先に、こんな姿を彼には見られたくなくて焦った。
「……やだっ……来ないで……」
 うわごとのように叫んだが、弱々しい声はシグマの耳まで届かなかった。

つづく