勇者になんてなりたくないのに 3

(初掲載日:2014年4月22日)

 宿屋の部屋には入ったが、まだ陽は暮れていなかった。
 相部屋なので、もちろんベッドもふたつある。
 荷物を置き一息ついていると、ベッドに腰掛けていたシグマが声をかけてきた。
「お腹すきましたね」
「……そういえば」
 もうひとつのベッドに腰掛けていたラムダは、今日初めて、自分が空腹だったことを思い出した。
 朝から色々なことがあったので、食事のことなどすっかり忘れていたのだ。
 すかさずシグマが立ち上がる。
「朝からめまぐるしくて疲れたでしょう。私が何か食料を調達してきます」
「お願いします」
 ラムダは素直に甘えることにした。なにしろこの辺りの地理など全くわからない。何がどこにあるか知り尽くしているシグマに任せたほうが安心だった。
 部屋からシグマが消えると、急に今日一日の疲れが押し寄せてきた。ラムダはぐったりとベッドに横たわり、そのまま目を閉じた。
 肉体的な疲れよりも、精神的な疲れのほうが強いようだった。わけもわからず城に連れ去られ、国王から魔王を倒せと命ぜられ、今またどことも知れぬ遠くまで旅をさせられることになった。地味で平凡な日々を送っていたはずなのに、今日一日で激動の運命を課せられている。
「……この先、どうなっちゃうんだろう……」
 考えてしまうと憂鬱になりそうだった。考えてはいけない、と自分に言い聞かせる。
 一人でなかったことは幸いなのだろうか。もし一人だったら、うまく逃げられたのではないか。だが逃げられない運命なら、二人のほうが心強い。しかし魔王を倒すという使命が大きすぎて、二人だけでは心もとない。もっと仲間がほしい。
「どうして俺が勇者なんだ。戦えそうな人間なんて、他にたくさんいるじゃないか」
 大きなため息をついていると、シグマが帰ってきた。腕には大きな紙袋を持っている。
「パンとミルクを買ってきましたよ」
「……ありがとうございます」
 ラムダはのろのろと起き上がり、手渡されたパンと瓶に入ったミルクを受け取った。
 一口かじるととても美味で、それに刺激されたように腹が鳴った。会話もなく無心に食べていると、視線を感じて顔をあげた。興味深そうな眼差しで、シグマがこちらを見ていた。
「おいしいですか?」
「うまいです」
 素直に答えたラムダは、まだ手をつけていなかったミルクに口をつけた。
 一口飲み、眉をひそめる。
「……あれ?」
「どうしました?」
「これ、ホントにミルクですか?」
 不思議に思いながらシグマを見つめると、彼はちょっと笑った。
「正確に言うと、酒入りミルクです」
「酒……」
「飲んだことないんですか?」
「だって俺、今日十八歳になったばかりだし」
 そう答えると、シグマは意外そうな顔をした。
「我が国には、酒を飲むのに年齢制限なんてありませんよ?」
「知ってますよ。でも、うちの村ではお酒は十八歳からという決まりがあるんです」
「その決まりを律儀に守ってたんですね」
 シグマが微笑ましそうに笑う。ラムダは急に恥ずかしくなってきた。
「べ、べつに律儀に守ってたわけじゃ……」
「今日が誕生日なんですね。おめでとうございます。どちらにせよお酒解禁なんですから、乾杯しましょう」
「あ、はい」
 酒入りミルクの瓶をグラスのように合わせ、カチンと音を鳴らせた。
 生まれて初めて飲む酒の味はよくわからなかったが、シグマを見るとうまそうに飲んでいる。ラムダもグイッと瓶を傾け、喉の奥へと流し込んだ。
 焼けるように体内が熱くなった。軽いめまいすら覚える。シグマの様子をうかがったが、彼は全く平気そうだ。きっと飲み慣れているのだろう。
 世界がふわふわとしてきて、ラムダはコトンとベッドに仰向けに倒れた。驚いたシグマが声をかけてきた。
「どうしました?」
「あ……いえ、初めて酔っぱらったので、ちょっとめまいが」
「大丈夫ですか?」
 立ち上がったシグマが、近づいてきた。ラムダの様子を上から覗き込み、なぜか頬を紅潮させた。ゴクリと唾を飲み込む様子を、ラムダは不思議なものを見るような気持ちで眺めていた。シグマが手を伸ばしてきた。優しく頬に触れてくる。
 顔が近づいてきた。
「…………っ」
 ラムダの唇に、シグマの唇が押しつけられていた。
 驚いたラムダは、咄嗟にシグマの肩の辺りを掴んだ。しかし、シグマの唇は我を忘れたようにラムダの唇を貪ってきた。舌を差し込まれ、口腔内を侵食される。
「あっ……」
 ラムダは反射的に抵抗しようとしたが、それより早くシグマに押さえ込まれてしまった。舌を絡め取られると、これまで体感したことのない不思議な感覚がじわりと腰を這った。その正体が何かわからぬまま、混乱した頭でやみくもにもがく。
「暴れないで」
 優しい声でシグマが囁いた。
「気持ちいいことするだけだから」
 シグマの唇が、ラムダの首筋を這った。服の裾から手が入り込み、素肌を撫でられる。軽いまめいがラムダを襲った。だんだんと服がまくりあげられ、平らな胸に手のひらが触れる。普段存在を忘れていた小さな突起を、指先でつまみあげられた。
「……はぁっ……」
 吐息が漏れた。それを快感だと思ったのか、シグマの指先が、尖り始めた突起を強めにこする。ラムダは軽くのけぞり、強く目をつむった。
「思ってたより、敏感なんですね」
 シグマが嬉しそうに囁いた。顔をラムダの胸元に移動させると、突起を舌先で撫であげる。ラムダが細かく震えると、シグマはさらに大胆になった。
 小さな胸の突起を吸い、甘噛みし、舌先で何度も撫でる。それらを交互に繰り返され、ラムダの呼吸が苦しくなってきた。身をよじると逃がすまいと押さえ込まれ、さらに激しい愛撫を受けることになる。
 ふいに下腹部の辺りを掴まれ、ラムダはビクッと跳ねた。
「硬くなってる。気持ちいいんですね」
 否定できないことが悔しかった。
 それまで胸ばかり攻めていたシグマが、急に矛先を変えた。さらに下へとさがって行き、ラムダのズボンを緩め始めた。
「あっ……やだっ」
 ラムダは慌てて嫌がったが、シグマは手早かった。あっという間に下着ごとズボンをずりさげると、少し硬さの増した男の象徴を手の中へと握りこんだ。
「……あっ……」
 ラムダが反射的に喉をそらすと、生理的な涙がこめかみへと流れた。

つづく