冬の日

(初出:ゆいかromance 初掲載日:2002年02月04日)

 寒い寒い冬の中、外で歩かなきゃならなくなって、俺は半ば逆ギレしかけていた。
「さみぃ~さみぃよーっ」
 防寒を甘く見てたわけじゃなかった。着膨れるぐらいたくさん着てきたってのに。
 手袋だって役に立ちゃしねぇ。マフラーに顎まで埋もれるようにしてんのに。
 隣で一緒に歩いてる奴もすごい寒そうにしてっけど、さっきからなんも喋らない。
 喋ってくんない。
 別に喧嘩なんかしてねぇし、気まずいようなこともなかったよな。
 ちらちらと俺は隣の奴を気にした。
「さぶいなー」
 やっと喋ったかと思ったらそれかよ。
 あーやだやだ。なんでこうムードとかねぇんだろ。
 ていうか、こんな場所でムード作る方がおかしいか。
「あと十分ぐらいで着くやろ。後もうちょっと。頑張れ」
 いきなり優しいこと言われて、俺はうわって思った。
 さっきまで全然喋んなかったくせに。
 普通こういう時ってさ、手ェ握ってあったかくなろうとか、そういうことしねぇ?
 なんで全然フツーなの。
 言葉だけじゃなくてさ。
 ちらちらと隣の奴見てたら、ふいに気づかれた。
「どした?」
「べつに」
 ああ俺ってなんでこう素直じゃねぇんだろ。でも、手ェつなご、なんて俺から言えるわけねぇじゃん。
「寒い」
 ちょっと怒った風に訴えてみた。したら奴はちょっと可笑しそうに笑った。人んこと観察すんなって思ったけど、こいつそういえばいつもこうだし。
 そしたらいきなり俺の考えてること読んだみたいに、手ェ差し出した。
「もうあと十分ぐらいやけど」
 きゅっと手のひら握られる。手袋がなんだか邪魔だった。反射的に心臓ばくばく言い出して、急に寒くなくなった。
 俺ってば現金。
 こんな小さなことで幸せになるなんてさ。
「着いたらなんかおごれよ。腹減ったから」
「……なんでそういう流れに?」
 嬉しいって素直に言えない俺が方向性間違ってること言ったら、奴は不思議そうな顔して困ったみたいに苦笑してた。
「ええよ。その代わり、俺ももらいたいもんあるし」
「……え……?」
 俺がびっくりしてると、奴はまた可笑しそうに笑った。
 だからそーゆー意味ありげな顔して内緒にすんのやめろよ。
 残り約十分、俺たちは手ェつないだまま歩き続けて、やがて目的の建物に入った。
 温泉が豊富にあるそこそこ大きな旅館。
 雑誌で見つけて俺が行きたいってねだった場所だった。

END