ニセモノのコイビト 21

(初掲載日:2002年10月12日)

 悲鳴に近い声を盛大にあげて、俺は頂点に達してしまった。
 幸彦に強く抱きしめられた状態のまま、身体をびくんびくんと痙攣させて、自分と幸彦の腹に精液を撒き散らした。ほとんど同時に幸彦が俺の中に放っていた。
 俺たちはふたりとも激しい呼吸を何度も繰り返した。
 俺は放心したように呆然として、なにがなんだかわからないままイッてしまったことに気づく。
 幸彦は俺の中から抜こうとしないまま、ちょっと納得いってない顔をしてる。言い換えれば、自己嫌悪に陥ってるっぽい感じ。
「……思ってたより早いって」
 どうやら予定通りじゃなかったみたいだ。
 幸彦の予定なんて知らない俺は、ただただぐったりとするしかない。
 全身に重い疲労がのしかかってきて、今すぐに楽になりたい……ようするに、眠ってしまいたいような気分になる。
 感想を言えって訊かれたら、……かなり気持ちよかったかもしれない。
 初めのうちは本気でなにがいいのかわかんなかったけど、途中から快感に襲われて、どんどん昇り詰めていった。一度火がつくとあとは早くて、すごいスピードで別世界へと連れ去られたような気分だった。
「……やや」
 呼びかけられて、俺は閉じていた瞼をうっすらと開いた。
 身体だけじゃなくて、腕も足も重い。
「……ん……?」
「実はまだ、終わってねぇんだけど」
 え。
 ふたりで一緒にイッたら終わるんじゃないの?
「……あぅっ」
 いきなり幸彦が動いて、俺は思わず悲鳴をあげた。
 俺の中の幸彦が、また大きくなりはじめてた。
「……ウソ……っ」
 やだよ。もう終わろうよ。
 男同士のセックスがどういうのかはよくわかったからさ。
 どのぐらい気持ちいいとかも全部わかったから。
「……やだ……そんな、何回もできない……」
「俺がまだなんだよ。こんなんじゃ全然足りねーの」
「……それは、また次回……」
 言葉を遮るようにキスされた。
「……ぅんっ……」
 幸彦の腰が動き始める。精液で濡れてるせいなのか、最初の時よりもずっとなめらかだった。
 そして、そこで快感を覚えることを知ってしまった俺は、幸彦にそうされてるだけで感じられるようになってしまった。幸彦が動くとすごくそこが気持ちよくなれる……そんなイメージが頭の中に植えつけられて、しかもついさっきまですごい快感に襲われてたのと、まだ余韻が残ってるのとで、あっという間に俺は飲み込まれてしまった。
「……あぁ……っん」
 幸彦はまったく遠慮がない。さっきよりもずっと早く動いてくる。もっとゆっくり優しくして欲しいのに、幸彦はそうしてくれなかった。
「やっあ……あっ……ゆき……っ」
 一定のリズムを刻みながら、やけに力強く深く穿ってくる。俺が少しは慣れたせいなのか、乱暴なぐらい幸彦は激しかった。
 俺の中の一番感じる場所に、また照準が当てられる。否応なく腰が跳ねて、俺はまたじたばたともがいた。
「ああっ……そこやだってば……ゆきっ……あああっ……」
 今度はさっきみたいにすぐには離れてくれずに、そこばかり狙われて頭がおかしくなりそうになる。痛いぐらいの強烈な快感に、俺の身体はバラバラに壊れてしまうんじゃないかと思った。
 幸彦は、強引に俺を押さえつけるようにして、なりふり構わずその場所ばかりを狙ってきた。あまりの衝撃に俺は何度かイッてしまった。にもかかわらず、幸彦の攻撃は止まらなくて、俺は泣きじゃくりながらか弱い小動物にでもなったみたいに、為す術もなく犯され続けていた。喉から洩れる声は止めることもできずに、やがては嗄れたようにかすれてくる。
 再び幸彦が俺の中でイッた頃、俺はもう半分ぐらいは死にかけてたような気がする。
 ようやく俺を自由にしてくれた幸彦は、あまりにもぐったりとしてる俺を見て慌てて謝ってきた。優しく抱きしめてくれたから、俺は仕方なくチャラにしてやることにした。

 初めてにしては、かなりの無茶をしたんじゃないかと俺は思う。
 なにしろベッドの中に沈み込んだまま、まったく動けなくなってたからだ。
 後始末は幸彦がしてくれた。ここまでやったんだから当然だ。でも中に出されたものを指で掻き出されるのは、恥ずかしいのを通り越してつらかった。
 いつ親が帰って来ても不審に思われないように、俺はパジャマを着せられた。着せられたってのは、自力で着るだけの元気もなかったせいだ。幸彦の手で下着を穿かされ、パジャマを着せられてしまうのは、屈辱感すら覚えるほどの羞恥心を呼び起こしたし、俺は着せ替え人形かってツッコミ入れたくなったりはしたけど、それも幸彦のものすごーく幸せそうな嬉しそうな顔を見てしまうと、そんな感情もしゅるしゅるとしぼんでいった。
 愛は偉大なり。
 っていうより、惚れた弱みなのか?
 あんなにも幸彦のいいように思う存分自由にされてしまったにも関わらず、俺は幸彦が嫌いになるわけでもないし、好きだって気持ちがしぼむわけでもない。それどころか、ほとぼりが冷めたらまた幸彦に抱かれたいなんて考え始めるんじゃないだろーか、なんてことさえも心のどこかで思いはじめていたりする。
「やや」
 幸彦は俺のすぐ傍で制服を着込んでいた。
 もうすぐ帰っちゃうんだなと思うと、きゅんと寂しくなった。
「ムチャクチャしてごめんな。抱いてんのがややだと思うと、頭ん中ぶっ飛んじゃってさ。どーにもこーにも歯止めきかなかった。あれでも一応、できる限り抑えたんだけど」
 俺は返事ができなかった。
 全身にうっすらと冷や汗がにじんだ。
 あの相当な無茶は、できる限り抑えた結果だったのか。
 ……じゃあ、抑えなかったらどんなことになってんだよ……。
 俺がびびったのに気づいたのか、幸彦は照れたように苦笑した。
「安心しろよ。ちゃんとややの身体のことも考えてんだから、俺は。やり殺したりだけは絶対にしないから」
 ……どーしてそういう表現方法なんだよ?
 ますます怖いじゃねーかよ。
 俺、身体許してよかったのかな。よかったんだよね?
 でも、これから先の幸彦が怖いと思うのはなんでだろう?
「……お、お手柔らかに……おねがいします……」
 俺は動揺しながら返事をした。
 もうちょっと優しいセックスしてほしいなって思うんだけどな。あんまり激しすぎるのは、カラダがもたないんだけど。俺のこと考えてくれてるんだったら、もう少し優しくしてくれてもいいと思うのに。

つづく