ニセモノのコイビト 20

(初掲載日:2002年10月12日)

「……苦し……っ」
 息をするのもつらい。脂汗が全身ににじむ。身体が強張る。どうしていいかわからない。
「やや、力抜け」
 幸彦は本当に容赦がなかった。
 強引にすべてをねじ込んでくることはなかったけど、浅い場所で抜き差しするように動いたかと思うと、ほんの一瞬俺の力が緩んだ隙にぐぐっと入ってくる。
「んっ……!」
 入ってきたってわかった瞬間にまた俺が強張ってしまい、身体が勝手に幸彦を押し出そうとした。
「っつう……」
 幸彦にも痛みが走るのか、顔を歪めた。
「やや、怖がんじゃねーよ。力抜けば絶対に気持ちよくなるから」
 力抜けって言われても、どうすれば抜けるのかわかんないよ。
 知らないうちに涙腺が緩みまくってて、俺もぼろぼろ泣いてるし。
 こんなに苦しい思いをしてまでやることなのか?
 男同士のセックスってこんななのか?
 思ってたのと全然違う。
 もっと甘くて気持ちよくて、幸せな感じだと思ってたのに。
 苦しい体勢のまま、幸彦の手が、するっと俺のモノに絡みついた。
 俺の両足はいつの間にか、幸彦の肩に乗っている。幸彦の片方の手は、俺の腰を下から支えていた。そしてもう一方が。
「……やぁ……ん……っ」
 俺の下腹で萎えてたものを、いきなり上下に扱きだした。
 何度も刺激を加えられてるうちに、それはだんだんと熱くなっていった。くし刺しにされかけてるのも少しずつ忘れていき、感覚はそこへと集中していく。無理な体勢にも関わらず、俺は幸彦の手に愛撫されながらどんどん気持ちよくなっていった。
「……うっ……」
 幸彦がさらに入ってきた。でも俺は幸彦に触ってもらってるモノにすべての神経を必死で集中させた。どんどん昇り詰めていく。うっとりと喉をそらした。
「……あぁ……っ」
 身体が揺れた。さらに深く幸彦が入ってきた。その衝撃はすごかったものの、最初ほどの苦しさはなかった。痛いのかどうかはよくわからない。なんだか麻痺したみたいに、身体ごと痺れていた。
 幸彦が深く息をついた。
「やや、全部入った」
「……ん……」
 俺はぼんやりと視線を動かした。痛いのか苦しいのかつらいのか、それとも気持ちいいのか俺にはなにがなんだかさっぱりわからなかった。自分がどうなっちゃってるのかもわかんなかった。幸彦の手に支えられてる浮き上がった腰と、肩にかつがれてるふくらはぎと、無理に胴体が折り曲げられてるような感覚と、幸彦の手に握られて勃ちあがってる俺のモノと。なんかわかるのはそれだけのような気がした。
 幸彦の腰と、俺の腰が密着してる。
 ちょっと動いただけで、身体に振動が来て、俺は小さく悲鳴をあげた。
 入っちゃうもんなんだなぁ……と変な感心をする。
「動くぞ」
 幸彦が言った。
 俺は左右に首を振った。
「……やっ……」
 動かれたら俺が壊れそうで、それが怖くて嫌がった。
 幸彦は俺の足を抱え直して、ゆっくりと腰を引いた。気が遠くなりそうになった。またゆっくりと押し込んでくる。
「……う……んっ……」
 一度入ってしまえば、動くのは簡単らしい。幸彦は、ゆっくりだけど確実に、俺の中で出入りを繰り返した。
「かなりキツイけど、気持ちいいぞ」
 幸彦は本当に気持ちよさそうな声で言った。
「やや、聞こえてるか?」
 俺はなんとか頷いてみせた。腰から下がまるで俺のものじゃなくなったみたいに、俺の意志ではどうにもならない。幸彦が動くたびに揺らされて、その振動は俺には絶対に制御できないものだ。
 かすかな悲鳴のような泣き声のような、変な声が出る。幸彦は最初のうちこそゆっくりだったけど、すぐに我慢できなくなったみたいに少し早くなった。
「……ぁあっ……んっ……んぅ……っ」
 内臓が押し上げられるような感覚がするたびに、反射的に声が洩れる。この行為が気持ちいいのかどうか、俺にはやっぱりよくわからないままだ。ただ苦しくてつらい。俺にこんなことをしてるのが幸彦だから許せるようなものだった。
 幸彦は、初めの数分間はただ抜き差ししてきただけだった。でもしばらくすると、角度を変えるように突き上げてきた。その時、ある場所を幸彦の先端が強く押し上げると、俺は反射的に悲鳴をあげてシーツをつかんだ。
「……っ。うあぅっ……」
「さっき気持ちよかった場所か?」
 幸彦の先端がぐりぐりとそこばかり突いてくる。
「あああっ……やっ……やだっ……」
 俺はいきなり乱れはじめて、必死で左右に首を振った。
「やだっ……そこ、やぁ……っ」
「嫌なわけねぇだろ。こんなに感じてるくせに」
 俺は無意味に左右に首を振り続ける。頭がどうにかなりそうだった。どういうわけだか知らないけど、俺は喘ぎながら泣いてしまう。脳天に突き上げるような強烈な快感に、どうしていいかわからない。
 すっと幸彦が引いた。俺の中からは抜かずに、今度は違う場所をこすってくる。俺は急に楽になって、ぜいぜいと喘ぎながら幸彦にされるがままに揺さぶられた。でもさっき感じたばかりの場所が、もう突き上げられてないのにズキズキと疼きだして、俺の中全体へと広がっていき、どうしようもない感じになっていく。
 だからそことは違う別の場所を抉られているのに、俺は気持ちよくなってきてしまった。
「……っ。……あぁあ……っ」
 必死でシーツを握り締め、幸彦が動くたびに降りかかってくる感覚に耐える。なにがどうなって、自分がどうされてるのかもわかんないまま、ただ身体をくねらせて幸彦を飲み込んでいる。
 幸彦はさらに遠慮なく加速してきて、もう俺はなにも考えられなくなった。
 足を左右に割り開かれて、幸彦の上半身がのしかかってきた。ほとんど身体は半分にたたまれてるような感じになって、さっきまでよりも深く穿たれた。
「……ぁあっ……んっ……はぁ……っ」
 力強く抱きしめられる。俺は必死で幸彦の腕にしがみつき、背中へと腕をまわす。
 腹の辺りで勃ちあがってる俺のものが、幸彦の腹にこすられた。二重の快感が迫ってきて、俺は完全にどうかなってしまいそうだった。
「ああっ……ああっ……あっ……」
 感極まったようなひどく乱れた声が俺の口から出ていく。快感はどんどん膨れ上がっていき、俺には絶対に制御できないレベルまで拡大していく。もうなにされてもいい、壊されてしまってもいい、そんな風に思えるほど頭の中も身体もどうかしてしまった。

つづく