ニセモノのコイビト 19

(初掲載日:2002年09月29日)

 下腹のところで硬く勃ちあがってるものを、早くなんとかしたかった。でも自分で触ると幸彦に怒られる。でもつらい。早く解放したい。幸彦が触ってくれると一番いいのに。
 その幸彦は、ぬるぬるしたなにかを俺の排泄にしか使ったことのない場所に丹念に塗っていた。やけに丁寧だった。
「……ぅんっ……」
 身体がびくんと跳ねた。
 狭くてきつくて小さな孔の入口に、幸彦の指がいきなり潜り込んできたからだ。
「やっ……痛いっ……」
「痛くねぇよ。痛い気がしてるだけ」
 幸彦はとんでもないことを言いやがった。
 痛いというか、苦しいというか、息が止まりそうっていうか。
 とにかく指の先端だけかもしれなくても、引き裂かれるような怖い感覚に襲われる。
「やだっ……抜いて……っ」
「ダメ」
 浅く抜き差しするようにしながら、ぐぐっと指がさらに押し込まれてきた。
「……ああっ……」
「すげぇ、キツイな。本番ちゃんと入る?」
 幸彦にそんなこと訊かれても、俺には答えようがない。
 できれば、挿れてほしくなかった。
 さすがに指一本でこんなにつらいのに、さらにすごいものなんか絶対に入らない。
 気持ちいいことされるなら大歓迎だけど。でも、そこに指を挿れられても、俺はあんまり気持ちよくなかった。逆に気持ち悪い。
 それよりも前の方を触ってほしい。
 幸彦の指は浅い場所で前後に動いてきた。AVで見るようなセックスの動きを思い出してしまい、うわぁっと思って、全身にかぁっと熱が駆け抜ける。でもその場所が気持ちいいかとなると話は別だ。
 浅い場所でしばらく動いてたかと思うと、幸彦の指はさらに奥まで入ってきた。内臓が押されたような気がして、一瞬吐き気を覚える。男同士のセックスって本当に気持ちいいのかな。嘘なんじゃないのか? こんな調子でどうやって気持ちよくなるんだ?
 俺、もしかして夢抱きすぎだった?
 すごく気持ちいいことだと思い込んでた?
 でもさっきまでは本当に気持ちよかった。触られてる時は。幸彦にいろんな場所撫でられるのはすごく気持ちがよかった。
「あぅっ……」
 指が二本に増やされた。一本でもつらくて苦しかったのに、増やすなよと文句言いたくなる。でも俺は文句どころか、ただされるがままに呻くことしかできなかった。
 息があがる。苦しくて。喘いでるみたいな呼吸で、幸彦は俺が気持ちいいと勘違いしてるかもしれない。どうしよう。まだ気持ちよくなってない。
 冷や汗だか脂汗だかわかんないけど、全身が汗でじっとりとする。
 すごく奥の方まで、さらに数を増やした指が入ってきた。
 抜き差しするんじゃなくて、なにかを探すように中で動く。その数秒後。
「……あっ!」
 全身に電流のようなものが駆け抜けた。脳の頂点の方まで響いた。
 今のはなにかと思うより、幸彦の指が仕掛けてくるとんでもない感覚に必死で耐える方が先だった。
「あっ……やっ……ダメッ……」
 俺は必死で逃げようとした。そこを触られると身体も頭も変になりそうになる。なのに幸彦は俺を強引に押さえつけて、さらにそこを刺激してきた。
「ああっ……あっ……あっ……ぁあっ……」
 ビクビクと身体が痙攣して、それまで勃ちあがったまま放置されてたモノが、一気に爆発した。
 身体の中から指が消える。俺は仰向いてはいられずに、身体を斜め横に向けてぜいぜいと激しく呼吸をした。ものすごい疲労感が全身を襲った。
 自分の精液が腹を濡らしてて気持ち悪かった。ぐったりとした俺の腕を、幸彦が引っ張ってる。ダメ……もう許して。疲れた。
「やや、まだこれからだぞ」
 そんなこと言われても。
 一度イッてしまった俺の身体は、これ以上はもういいと訴えていた。男同士のHって、思ってたよりも疲れる。ゴールがいったいどこにあるんだか、遠すぎて見えない。
「……もぅ……や……」
 いやいやするように首を振ると、幸彦が耳元で囁いた。
「俺は途中でやめないって言ったぞ。ややが泣いて嫌がってもやめないって」
 ひくんと喉が鳴った。
「だから、生半可じゃねーから覚悟しろって言っただろ」
 呼吸の乱れはなかなか整わなかった。俺はすぐ傍で見つめてくる、幸彦の顔をそっと見返した。自分の目の辺りを拭うと、生理的な涙で濡れていた。
 幸彦は、俺の頬や首筋にキスしてきた。それは気持ちいい。やんわりと気持ちいい。
 でもさっきのは。あまりにも強烈すぎて、俺にはつらすぎた。
「気持ちよかったんだろ? すげぇ色っぽかったぞ、やや」
 耳の奥に息がかかるぐらいのすぐ傍で、幸彦の声が低く囁いた。
 ぞくんとして思わず目を閉じる。
「……あっ」
 いきなり俯せにされた。身体を支えようと思っても、腕にまったく力が入らない。腰だけ無理に高くされて、それはそれでものすごく不自然な体勢にさせられた。
「……やだっ……やっ……」
 それでも俺はじたばたともがいた。幸彦はしっかりと俺の腰を支えて、尻の輪郭をなぞるように撫でてくる。触られるのはもちろん嫌じゃないけど、この先のことを考えると抵抗せずにはいられなかった。
「この体勢だと、ややの顔が見えねぇよな」
 幸彦は突然そんなことを言うと、俺の腰を解放した。でもベッドから降りて逃げるほどの元気も残ってなくて、俺はぐにゃんとベッドの中に崩れた。
 シーツに顔をうずめながらうっすらと目を開いた。幸彦は、下半身にまだ残ってるズボンと下着を脱ごうとしていた。ぞくっと身体が震えたのは、恐怖のせいだけとも言えない。甘い期待や痺れがまったくないかって言うと嘘になる。
 幸彦の、硬くそそり勃ったものが視界に飛び込んだ。俺はひるんだ。頭の中にあるすべての神経が、絶対無理だこんなもの入るわけがないって叫んだ。
 ガシッと足をつかまれる。
 俺は反射的にシーツをつかんだ。
「やだぁ……絶対無理……っ!」
「なるべく痛くないようにするから」
 なるべくなんて百パーセントじゃねーだろっ。
「……やぅ……っ」
 仰向けにされた。
 あっさりと両足を幸彦の腕に抱え込まれて、左右に開かれる。
 今さら足を大きく開かれても、最初ほどの恥ずかしさはないけど。
 でもやっぱり恥ずかしい。
「……あ」
 幸彦のモノがそこにあてがわれた。
「やぁ……っ!」
 ぐぐっと強く押し込まれる感触。
 身体がふたつに引き裂かれそうな壮絶な感覚。
「……ああっ……あっ……」
 俺は必死でもがいた。ものすごい圧迫感と苦痛。内臓が押されて嘔吐感が押し寄せる。

つづく