ニセモノのコイビト 18

(初掲載日:2002年09月21日)

 初めのうちはついばむようなソフトな口づけだった。たったそれだけで俺はうっとりとしてしまい、瞼を閉じて浸っていた。
 次に薄く開いた唇に、幸彦の舌が滑り込んできた。まるで生き物のように俺の口腔内を動きまわり、舌を絡めとられた。じんと腰の辺りが痺れて、全身へと広がった。
「……ん……」
 キスの主導権は完全に幸彦にあった。だんだんと激しくなっていくキスに、俺は少し慌てる。肚をくくった幸彦はもう完全にためらってなかった。
 気持ちいいと言うよりも苦しいキスで、息がうまくできなくなった。ちょっとの間だけでもいいから逃げたくなって、幸彦の肩を押したら、いきなり力任せにベッドの中に押し倒された。
「……ぅわっ……」
 見上げると、幸彦は完全に俺の上にいて、荒い呼吸を持て余したように繰り返していた。やけに野性の獣じみていて、俺は思わず我に返って息を呑んだ。
 怖いよ。
 これじゃ愛し合うとかじゃなくて、食われるって感じじゃねーか。
 俺はエサか?
「やや」
 幸彦はびびってる俺に気づいたのか、必死で自分を押しとどめるように深呼吸をした。
「できる限り優しくするよう、努力はする」
 その努力はどのレベルなんだよ?
 まだキスしかしてないのにこんなに怖くなってんだぞ、俺は。
 幸彦は、いきなり着ていた服を上半身だけ脱いだ。
 俺よりずっとがっしりしてる身体が、剥き出しになった。
 普通なら同じ男としてジェラシーを覚えるだろう幸彦の身体。
 でも今の俺には、眩暈がするほどの力強さを感じて、この身体に抱かれるのかと思うとそれだけで気持ちよくなってきた。
 幸彦は再び俺の唇に濃厚なキスをすると、同時に身体をまさぐってきた。
 くすぐったさと気持ちよさが一度に降ってくる。
「……ぁ……っ」
 脇腹から上へと手が這いあがってきて、平らな胸を撫でられた。幸彦のキスは頬から首筋へと移っていき、鎖骨の辺りを這った後で、胸の方へと向かった。
「やぁ……っ」
 普段はまるで意識してなかった乳首に、幸彦がいきなり舌を這わせた。もう片方は指先に挟んで、軽くねじる。こんな場所が感じるなんて今まで知らなくて、その思いがけない感覚に俺は焦っていた。
「……あぅ……」
 びくっと身体ごと反応した。快感から逃れようと身体を縮ませようとしたけど、幸彦は許してはくれなかった。
 遮ろうと伸ばした手が、手首ごとつかまれて、すごい力でベッドに押しつけられる。たかが胸なんて言えないぐらいに、そこから広がってく感覚は強烈だった。
 下腹の方で、股間が熱くなりはじめるのを感じる。
「……ゃだっ……も……っ」
 胸はもうやめてほしくて身じろいだ。幸彦は舐めるだけじゃ飽き足らず、軽く歯を立てたり、唇に挟んで吸ったりなんてことまでしてくる。
「……やぁ……あ……」
 泣きだしたくなるような感覚に、必死で逃れようとじたばたした。でも両手首はベッドに押さえつけられている上に、幸彦は体重をかけてきて俺ごと押さえ込んでいた。
 部屋着用のズボンの中はもうすっかり熱くなっていて、しかもかなりきつくなってきている。ほとんど胸しかいじられてないのに、そんな反応をする自分が信じられなかった。
 手首が自由になった。
 幸彦の片方の手が、腹から徐々に下の方へとさがっていく。ズボン越しにはち切れそうになったモノを撫でられた。
「……あっ……」
 何度か布越しのまま撫でられる。じかに触ってほしくて俺は左右に首を振った。
 幸彦は焦らすように何度もズボンの上から撫でてくる。その間も、幸彦の唇は俺の胸ですっかり尖ってしまったものをさらにいじめていた。
「……やぁ……う……っ」
 どうにかなりそうで頭を左右に振る。早くイッちゃいたい。
「前も思ったけど、すげぇ敏感だよな、おまえ」
 吐息混じりの声で幸彦が言った。俺の身体は敏感っていう言葉にダイレクトに反応した。
 ただでさえ変になりそうなのに、もっと変になりそうになる。
 幸彦の手が、ズボンの中に入ってきた。下着の中にも潜ってくる。
 じかに触られた俺は、もう今すぐにイッてしまいたかった。
「あぁぁ……ゆきぃ……っ。も、イキたい……っ」
「ダメ」
 幸彦は、俺のズボンを下着ごと奪い取った。急に涼しくなった下半身に、一瞬だけ頭が冷静になりかける。
 ズボンを穿いてる時は触ってくれたのに、剥き出しになったら触ってくれなくなった。つらくて苦しくて俺は思わず、自分で触ろうと手を伸ばした。
「こらっ」
 幸彦が怒った。たわいもないイタズラをした子供を叱るような声だった。手首をつかまれて、頭上に持っていかれる。
 両手首が幸彦の片手一本で固定されて、俺は自分の非力さを思い知った。
「自分で触ったら減点」
「……だってぇ……」
 俺は泣きそうな気持ちで反論する。
 腰のあたりがじんじんと疼く。
「……ゆきひこが触ってくんないからぁ……っ」
 呂律もすっかり怪しくて、舌足らずみたいになっていた。
「何回もイッたら、ややのカラダがもたねぇだろ?」
 幸彦の言葉に、俺は目を見開いた。
 ……何回もイク予定なのか、俺は?
「ひゃっ……」
 いきなり足をつかまれて、膝のところで折り曲げられ、しかも左右に開かれた。
 ドッと羞恥心が俺の中を駆け巡った。
 わかってたことだけど、とんでもない場所を幸彦に見られてしまってる。
 きつく閉じてるはずの蕾を、幸彦の指がそっと撫でてきた。
「……ゃだっ……」
 さらに指の腹んとこでつついてくる。
「……やだってば……」
「触るだけで感じるんだな」
 興奮したような上ずってる声で、幸彦が呟くように言った。
 感じてるのかどうかは俺にはよくわからない。ただ、はっきりと触られてるってのがわかるだけで。
 いきなり冷たい感触がそこに塗られて、身体が竦み上がりそうになった。
「冷たっ……」
「あ、悪い」
 あんまり申し訳なさそうには聞こえない声で幸彦は謝り、さらにそこになにかを塗り続ける。ぬるぬるした感触がした。
 なんだか気持ち悪かったけど、俺は必死で耐えた。
 いったい、いつの間にそんなの用意してたんだろう。
「なぁ……やや。おまえ男同士でどうやるって知らないって言ったけど、まったくわかんねぇわけじゃねーよな?」
「……え……?」
 俺は息も絶え絶えな状態のまま、うっすらと目を開けた。
「なにしてんだって訊かねーし」
「……そりゃ……なんとなくは……。でも、具体的な知識は……ないよ……」
 例えば逆の立場で、俺が幸彦になんかしようと思っても、こんな風に上手く相手を引っ張れない。なにをどうしたらいいのかわかんなくて、わたわたすると思う。

つづく