ニセモノのコイビト 12

(初掲載日:2002年08月03日)

 さんざんいじりまわして俺を変な気分にさせといて、幸彦はあっさりと手をそこから離した。
「……え……?」
「何事にも順番ってのがあるし」
「え……?」
 幸彦は後始末をやりはじめた。俺はぽかんとしたまま、幸彦に大事なところをティッシュで拭かれてた。
 下着とズボンを手渡されて、戸惑ってると「手伝ってやろうか?」なんて言われたから、慌てて自分で穿いた。
 ……終わり?
 終わり、なのか?
 ……あれ……?
 ヴァージン喪失って言葉が脳裏で駆け巡ってただけに、この状態はなんだかすごく中途半端な気がした。
 これはこれで、なんかくすぶるぞ。
 やられるって思ってたのに。
「……なぁ、幸彦」
「ん?」
「ホントに終わり?」
 俺が訊くと、幸彦は可笑しそうに笑った。
「もっとして欲しかった?」
 そんなこと言われて俺はカアッと顔を赤くした。
 そういう話じゃなくてっ。
 俺は本当にこれで終わりかって訊いてただけなんだよっ。
「だって中途半端じゃんか。俺だけイッて、幸彦なんもしてねぇし」
「あ、俺? 俺ねー。俺もかなりやばいんだけど。でもいいや」
「よくねぇよっ。なんで俺だけ恥ずかしい姿さらしてんだよっ」
 あ。
 なんだよ俺。
 普通に喋れるようになってんじゃん。
 た……単純に溜まってただけなのか……?
 そんなのやだな。恥ずかしいな。
「俺のしてほしいこと、もっとかなりやばいことだからさ」
 鼓膜に直撃してきた幸彦の言葉に、俺はなぜだか硬直した。
「……え?」
 もっとやばいって……どんなことなんだよ。
 しかも、かなりやばいって言ったぞ。
 怖かったけど、好奇心も頭をもたげた。
「それって、どんな?」
「え?」
「だから、してほしいことって」
 幸彦は困ったような顔で苦笑した。
「言えねぇよバカ」
 軽く小突かれる。どうやら照れてるみたいだった。
 幸彦にされたように、手でしてやるんだったら、できそうだけど。
 ……たぶん、違うんだろうな。
 自然と、幸彦の股間に視線が行く。
 そしたらいきなり肩を押し退けられた。
「どこ見てんだよ、おまえは」
「だって」
「いいから。俺は俺で暴走しないように必死なんだから」
 ……暴走?
 意味がわかってない俺はバカなんだろーか。
 不思議そうにしてたら、幸彦は複雑そうな顔をした。
「もうそろそろ昼休み終わるぞ。やや、ちゃんと制服直した?」
「うん」
「教室戻るぞ」
「うん」
 返事してて急に気づく。
 あれ、なんか変な関係になってないか?
 今までずっと対等だったのに。
 俺、面倒見られてねぇか?
 なんだよこの状態?
 幸彦の手が、俺の手をつかんだ。手をつなぐような感じで。
 鼓動が少し早まった。
 俺たち、本当に疑似恋人なのかな。あそこまでやることが発展しちゃうと、違うような気がしてくる。
 恋人の空気作るためだけに、あんなことしたんじゃないよな?
 演技なんかじゃないよな?
 幸彦の、本当の気持ちが知りたいよ。
 俺が嘘の恋人宣言なんかしなくても、俺とあんなことしたかったのか。
 キスしたかったのか。
 触りたいと思ってくれたのか。
 でも俺は?
 キスされるまではそんなこと考えてなかったくせに。
 でも今は。
 キスされても触られても抱きしめられても嬉しいかもしんない。
 ていうか、ものすごく嬉しいのはなんでだろう?
「さっき、何事にも順番があるって言ったよな?」
 俺が急に言うと、幸彦は不思議そうに振り返った。
「言ったけど?」
「それってなんの順番?」
「……訊くな」
 幸彦は嫌そうにそっぽを向いた。かなり言いたくないらしい。
 昨日がキスだった。今日は一番敏感な場所を触られてイカされた。
 ……明日は?
 どきどきと鼓動が早くなる。
 なんだよ俺。期待でもしてんのか?
 自分は絶対にホモになんかならないって思ってたのに。
 いやたぶん今でもホモじゃないと思ってるけど。
 だって俺がいろんなことして欲しいのって、幸彦だけなんだよ。
 他の誰にもそんな気持ちになんかならないんだよ。
 男だからとか女だからとか、そんなのすべて取っ払って。
 幸彦だけがいいんだ。
 これは恋かな。
 恋なのかな。
 疑似恋愛なんかじゃない。
 まぎれもなく真実の恋。
 そんな風に思ってるの、俺だけじゃないよね?
 幸彦も同じように思ってくれてるって信じたい。

つづく