ニセモノのコイビト 10

(初掲載日:2002年07月19日)

 授業中、先生の言葉はなにも頭に入って来なかった。
 ただぼんやりと、胸の奥に発生してしまった切ない想いのことで考え込んでいた。
 これは恋なのかなって何度も考えてみる。
 ずっと一緒にいてそんなこと考えなかったのに、今さら?
 キスのひとつでそうなっちゃうぐらい、俺って簡単な奴だったのか?
 幸彦の席は、ちょっと遠い。
 ふたつ前の列の、一番左。外に面した窓際んとこ。
 斜め後ろの背中が見える。
 ちゃんと真面目に授業受けてた。
 やっぱり変だよな、俺。
 幸彦の背中見てるだけでドキドキしてるなんてさ。
 目が合ったら恥ずかしいから絶対に振り返んなよって心の奥で願う。
 必死でそう願ってたのに。
 幸彦は唐突にこっちを向いた。
 まともに目が合う。
 息が止まりそうになった俺を見て、幸彦はにこっと笑いかけてきた。
 ヤバイ。
 心臓直撃食らった。
 幸彦はすぐに前を向いちまったけど、俺のドクドクと早くなって止まらない鼓動は静まらなかった。
 男のカラダって嫌だな。
 好きだと思ってるだけなのに変な反応するからさ。
 去年だって一昨年だって目なんかさんざん合っただろうが。
 何で今さら目があったぐらいのことで欲情すんだよ俺は。
 考えないように努力すればするほど、そこはじんじんと疼きだして、触りたくてたまらなくなった。
 息を止める。ぐらぐらと眩暈がする。
 授業中なんだよマジで。こんなになってどうすんだよ。
 やっぱり幸彦をオカズにひとりでやったのがまずかったんだろーか。
 それでこんな変な反応なんかすんのかよ?
 抜け出すにしても前屈みのみっともない姿勢になるし、動けねぇよ。
 必死で頭ん中で違うこと考えた。数学の公式とか思い浮かべてる間に、少しずつおさまってきた。
 だから振り向くなって言ったのに。
 聞こえないのわかってて、俺は心の中で幸彦を責めた。

 一日目の放課後に、恋人宣言をしてしまった。
 二日目の放課後に、本格的なキスをしてしまった。
 今日は三日目だ。そうだよ、おとといまでは普通のダチだったんだよ。
 なのに俺のこの劇的な変化はいったいなんなんだ?
「やや、大丈夫か?」
 ふいに声をかけられて、俺はぼうっと顔をあげた。
「なにが?」
「だから、なんか意識朦朧としてる感じだからさ。この二、三日の間にいろいろあったから疲れてんのか?」
 幸彦はいつものように俺の前の席の椅子に勝手に座り、俺の顔を覗き込んできた。
 ひるんだ俺は急に目が覚めた。
「……今、何時間目?」
「なに言ってんだよ。昼休みになってるよ、とっくに」
「……昼休み。……そか、メシ食わなきゃ……」
 顔を覗き込まれた瞬間、昨日の放課後のことを思い出してしまった。キスされた時のこと。今とおんなじ状況だった。俺が自分の席にいて、前の席の椅子に幸彦が座ってて。また心臓が変な速度で動いた。これは一回、トイレにでも行って抜いた方がいいのか? そしたらおさまるのか、俺は?
 わたわたと弁当を鞄から出した。昼はいつも幸彦と一緒に食べてる。場所は教室じゃなくて、屋上。なんでその場所かって言うと、実は誰も来ないからなんだけど。
 ……誰も来ない?
 どきんと心臓がまた跳ねた。
 嫌だな俺。変なの通り越して、どうかしてる。
 未経験だから欲求不満なのか?
「やや」
 いきなり呼びかけられて、俺は驚いて振り返った。
 幸彦はなんか言いたそうな顔で俺のこと見てた。
「……なに?」
「いや。なんでもねぇよ」
 ぽん、と肩に手を置かれた。そこからじわじわと全身に向かって熱が広がるような気がした。
 抱きしめてほしいな。
 またそう思った。
 俺、本当にどうしちゃったんだろうな。

 屋上の風は気持ちよかった。
 快晴の空も気持ちいい。
 そんな中にいると俺もようやく健全さを取り戻せて、爽やかな気持ちになれた。
 だからいつもの調子で幸彦とも喋ることもできた。変な意識もせずに、普通のダチみたいに。
 でもそんなの誤魔化しだって自分でもわかってた。
 俺は普通のダチのふりをしてるだけだ。
 意識すると変になるのわかってたから、意識しないように逃げてただけだ。
 食べ終えて空になった弁当箱にフタをする。入れ物に戻してふと気づくと、急に視界が翳った。
「……あ……」
 ちょっとこれは……どうなんだ?
 昼飯食ったばっかの口でキスって。
 そう思ってたのに、そのまま床に押し倒された俺は、幸彦のキスを素直に味わっていた。
「……やや、どうしてほしい?」
 耳元で急に囁かれて、俺は「えっ?」とびっくりする。
 どうしてほしいって、どういう意味だ?
 どくんと心臓が跳ねる。
 身体が急に熱くなってきた。
 ズボンの上に、幸彦の手が乗った。そこはまぎれもなく俺のモノがある場所だった。
「……ゆ、幸……彦……っ」
 声が変な風に裏返った。そんな場所いきなり触られるなんて思ってなかったし。
「……あ……っ。や……っ」
 ゆっくりと幸彦の手が動いて、そこを撫でられた。
「敏感だな」
 幸彦がかすかに笑う。
「もう勃ってる」
 指摘されて、羞恥心で急にわけがわかんなくなった。頭ん中が真っ白になる。
 パニクってる間に、幸彦は勝手に俺のズボンを緩めてた。膝まで降ろされてしまい、下着にも手がかかる。
「あ、やだっ。……幸彦……っ」
「そんな可愛い声で嫌がられても、俺が変な気になるだけだろ」
 下着も膝のとこまで降ろされて、一番恥ずかしい場所が幸彦の目にさらされてしまった。
「ややのここは可愛いな」
 ……そりゃどういう意味だ。小さいってことか?
 ちょっとカチンとはきたけど、羞恥心を上回るほどじゃなかった。
 幸彦の手が、すでに勃ちあがってるものに絡みついてくる。
「……やぁ……っ」
 俺は全身を竦めるようにして、小さな悲鳴みたいな声をあげた。

つづく