独り暮らしをしている俺の部屋に、見知らぬ一人の男が転がり込んできた。
聞けば、ほとんど絶縁状態の母親が、どこかの誰かと再婚したらしい。
男の話によると、彼はその再婚相手の息子で、二十歳になったのを機に家を飛び出してきたのだそうだ。
「……で、なんで俺んとこに来るんだよ」
不満を隠しもせずに文句を言った。彼は悪びれた様子もなく言い放つ。
「しょうがないだろ。他に行くとこなかったし」
どうやら彼には、困った時に頼れる友人がいないらしい。
面識もないのに、よく来れるもんだと内心で呆れていると、彼は一枚の写真を俺に見せてきた。
「これを見て決めたんだ。まずはあんたに頼ろうって」
そこには学生時代の俺が写っていた。友達と一緒に撮った楽しそうな写真だった。
「物置につっこまれてたアルバムひと通り目を通して、どこ住んでるのか調べて、なんとなく急に頼っても突き放したりしないかもって思って」
「そりゃまた、ずいぶんな過大評価だな。そんなお人好しに見えたのか」
なんて厚かましいんだ。俺はおまえのことなんか知らないぞ。
彼は手を差し出してきて、ギュッと俺の手を掴んだ。
「お義兄さん。これからお世話になります。よろしく」
「俺は世話するなんて言ってないぞ」
「世話してくれないと路頭に迷っちゃうんだけど」
「そんなの知るかよ」
そんなこんなで突然現れた義理の弟という奴が、すっかり俺の部屋に住み着いてしまった。