十年ぶりに再会した彼は、すっかりスーツの似合う男になっていた。
「今は社長なんだって? スゴイ奴になったね」
「たいしたことないよ。若い社長なんて、どこに行ってもなめられるし。従業員が十人ぐらいしかいない、小さな会社だし」
「でもスゴイよ」
絶賛の言葉を口にしながらも、切なくなってくる。
遠い人になっちゃったんだな。
ギュッと胸の奥が締めつけられる。
「彼女とか、いるの?」
「仕事が忙しくて、それどころじゃないな」
「そっか。そうなんだ……」
内心でホッとしている俺がいた。
「そういうおまえはどうなんだよ?」
「え? なにが?」
「実はとっくに結婚してたり?」
思わぬ質問返しに驚いた。
「そんなわけないだろ」
笑いながらも、苦しくなる。
だって俺が好きなのは。
勇気がなくて口にできない、その一言。
俺が好きなのは、ずっとおまえなのに。
十年前のあの日から、ずっと。
変わることなく。
「連絡先、交換する?」
その言葉に驚いて、顔をあげた。
「あ、うん」
内心うろたえながら、携帯電話を取り出す。
ドキドキしてることがバレないように、平常心を装って。
「じゃ、また連絡する」
笑顔でそう告げたおまえの真意はわからないけど。
ただの友達のつもりなのかもしれないけど。
でも嬉しくて顔が緩みそうになる俺がいた。
その日は偶然会って一緒にお茶しただけで別れたけど、あいつの連絡先が保存された携帯電話が、急に大切な宝物になったから、大事に持って帰った。