ネクタイを買った。
誕生日プレゼントにしようと思って。
店員さんに頼んで綺麗な包装をしてもらって。
カバンの中にそっとしまい、店を後にした。
でもそのプレゼントの箱がカバンの外に出ることはない。
買ったという自己満足に酔いながら、渡せない切なさにため息をつく。
僕が彼と初めて出会ったのは、僕が会社に入社した日。
彼はひとつ年上の先輩で、だけど同級生のノリで仲よくなれた。
彼を好きだと自覚したのは最近のことで、告白しようと思ったことは何度でもある。
その都度ためらい、告白を喉の奥に押し戻して、飲み込んだ。
今のままでいたほうが幸せなのかもしれない。そう自分に言い聞かせ、募る想いを押しとどめた。
友達のノリで気軽にプレゼントを渡せばいい。そう思いながらも、この気持ちがバレた時の怖さに負けて、勇気がでない。
だから自己満足でいい。彼のために買ったという自己満足で。
帰り際、ふと目に入ったカフェテリア。
スーツを着ていない私服の彼がいた。席に座る彼の向かい側には、見知らぬ女性。
楽しそうなその光景に、ああ、と思った。
そっか。いたんだ。
僕は背を向け、そっとその場から立ち去った。
自己満足で買ったプレゼント、家に帰ったら捨ててしまおう。
そうしないと泣いてしまいそうだから。