悠久の大陸 28

(掲載日:2020年10月28日)

 ボスモンスターを倒したので、グランデルクの城にはもうモンスターはいなかった。
 しんと静まりかえった鬱蒼とした城の内部は、かすかな音すらも聞こえてこなくて非常に不気味だ。
「装備を整えて、外に出るぞ」
 リュウトが促してきた。ナツキはほんのりと頬を染めた。
「う、うん」
 恥ずかしいような照れ臭いような、妙な感情に振り回される。
 リュウトと身体を重ねたのは一度や二度ではないというのに。
 もっと恥ずかしい姿をさんざんさらしてきたというのに。
 どうしてこんなにも身体が熱くなってしまうのだろう。
 支度を終えると、先を歩くリュウトについていく。性感の数値が高いせいなのだろうか、歩いているだけでも変な気分になる。いや数値だけのせいではない。セックスの直後だからだろう。でもそれだけではない。
(なぜかはわからないけど、俺、リュウトのことを好きになってる)
 恋愛感情に理屈なんてものはない。ふとした瞬間に急に好きになる。これまで何度も身体を重ねてはきたが、こんな気持ちになったのは今日が初めてだ。
(なぜかはわからないけど)
 振り返ったリュウトが眩しく見える。
「ナツキ」
 リュウトが右手を伸ばしてきた。手を差し出している。
「……?」
 ナツキが戸惑うように首をかしげると、リュウトが焦れたような顔をした。
「俺の手に、手を重ねて。魔法で一瞬で城の外に出るから」
「あ、うん」
 リュウトの手のひらに、そっと手を重ねた。彼の手は熱かった。体温が高いのだろうか。きゅうとナツキの胸が締めつけられる。
 リュウトが呪文を唱えた。全身がふわっと浮いたような、ズンッと沈むような、空間が歪むような感覚が押し寄せたかと思ったら、もう城の外に出ていた。
「……すごい。ホントに一瞬」
「ワープだよ。ダンジョンから一瞬で外に出る」
 リュウトがふっと微笑んだ。
「これからどうする? 適当に雑魚キャラと戦ってレベルあげる? もしそうするなら俺もサポートするけど? それともメインストーリーを進める?」
「俺ひとりでも」
「却下。ひとりにはしない。俺もついてく」
 どうやらリュウトは本気だ。
「ひとりにするとロクなことがない。ここはアダルト空間なんだ。ただでさえ性感の数値が高いんだ。それに引き寄せられてくるモンスターもいる。このままだと、あらゆるモンスターから犯されまくることになるぞ」
 ナツキはぞっとした。
「性感の数値が高くなったのはリュウトのせいだろ。俺は頼んでないし」
「ナツキはもう、その存在だけでもエロいんだ。本音を言えば、どこかの部屋に閉じ込めて毎日抱きたいぐらいなんだ」
「存在がエロいってなんだよ。俺をエロくしたのはリュウトだろ」
「一目惚れなんだよ」
「えっ?」
 急な告白に、ナツキは心底から戸惑った。
「初心者の村で一目見た時から、ナツキには惹かれてた。だから声をかけたんだ。抱きたかったからアダルト空間にも誘った。でもナツキは男には興味なさそうだったし、だから半分騙すような形になってしまったけど」
 ナツキはどぎまぎとする。なぜリュウトは急に告白してきたのだろう。
「本当は」
 リュウトはさらに口を開いた。真剣な表情だった。
「本当は、リアルのナツキにも会いたい。リアルのナツキも抱きたい」
 ナツキはどきりとした。
「で、でも、リアルとゲームでは顔も名前も」
「ふふっ」
 なにがおかしいのか、リュウトが急に笑った。
「うん、まあ、いいよ。とりあえずナツキのゲームを進めよう」
 急に話が打ち切られてしまった。
 ここでようやくナツキはスオウのことを思い出した。
(どうしよう)
 リュウトとはどうやら相思相愛のようだ。となると、スオウと、辰泰と関係が続いているのは、だいぶマズイのではないか。
「ス、スオウのことは……どう……」
「俺たちは3Pする関係だろ。そもそもあいつを誘ったのは俺なんだ。スオウはナツキに本気みたいだし、これからも3Pしよう」
「えぇ……っ?」
 ナツキは激しく戸惑った。この先も、ふたりから同時に抱かれることになるらしい。ようするに、これまでと何も変わらないということだった。
(いいのか、俺? それで本当にいいのか?)
 ナツキは混乱したが、リュウトはあっけらかんとしている。
「で、次はどこに行く?」
「え、あぁ、え、えぇと……」
 もうまともに思考が働かなかった。
「メインストーリーはどこまで進んだんだっけ? そう言えばナツキはこのゲームの原作のことはどう思ってる?」
「だ、大好き……っ!」
 ナツキは思わず大声をあげた。
 リュウトが驚いた様子で目を丸くしている。
「原作小説は全部読破したし、コミカライズの単行本も読破したし、アニメも全部見てるし、だからゲームの世界にも」
「そうか。それは嬉しいな」
 リュウトが破顔した。
「俺も大好きなんだ。ナツキは、こないだのイベントは行った?」
「うん」
「実は俺もいたんだ」
「えっ?」
 一緒に行く約束をしていたが、リュウトは用事があると言ってこなかったはずだ。なのに実はいたとはどういうことなのか。
「行けなくなったんだけど、用事が思ってたよりも早く切り上がって。急げば間に合う状態だったから、実はいたんだ」
「そうだったんだ……」
「もしかしたらすれ違っていたかもな」
 ナツキは内心でぎくりとした。リアルのナツキはゲーム内のナツキとそれほど姿が変わらない。スオウと辰泰はぜんぜん違うが、ナツキと那月はほぼ同じだ。
(もしかして気づかれた?)
 イベントにはたくさん人がいた。いちいち客の顔など見ていなかったが、あの中のどこかにリュウトもいたのか。
「今度、原作の話でもしよう」
 リュウトはそこで話を終わらせた。
 メインストーリーがまだ途中までしかクリアできていないので、それを進めることになった。リュウトのサポートがあれば、強い敵も怖くない。
 驚くほどさくさくとメインストーリーは進んで行き、ナツキのレベルもあがったし、武器もアイテムも増えた。モンスターと戦うのもだいぶ慣れた。
「今度、ゲームに新しいシステムが搭載されるんだ」
 メインストーリーが一段落したところで、リュウトが言った。
 やってもよし、やらなくてもよしなメインストーリーは、アップデートと共に新エピソードが追加されてとても長い物語になっている。一気にすべてをクリアするのは無理なので、ゆっくりマイペースに進めるのが正しいやり方だ。
「新しいシステム?」
「うん。家を持つことができるようになるんだ」
「家?」
「そう。レベルの高い低い関係なく、ある条件さえクリアすれば、誰でも家を持てるようになるんだ。家と言っても、デジタルデータだけどね、ゲームだから。内装も庭も好きなようにカスタマイズできるし、邪魔なアイテムをクローゼットに置いていけるようにもなる。内装は課金アイテムもあるけど、無料アイテムでもわりと楽しめるだろうから。畑を作ることもできるし、錬金術も自宅でできるようになるし、武器や薬の精製もできるようになる。もちろん、セックスも」
 意味深な目で見られて、ナツキはどきりとした。
「俺の家でしてもいいし、ナツキの家でしてもいいし、スオウの家でしてもいい。アダルト空間だから、エッチなアイテムも手に入るし、作ることもできる」
「へ……へぇ……」
 ナツキは思わずたじろいだ。
 そんなアイテムをゲットしたらナツキの身体で試されるだけなので、平静ではいられない。なんとか阻止できないだろうかと思ったが、きっと無理だろう。うっかり忘れていたが、以前も妙なものを装着させられたではないか。
「エッチなアイテムは外でも使えるんだ。アダルト空間だからね、なんでもありなんだよ」
「そうなんだ」
 ナツキは当たり障りなく笑ってやり過ごした。リュウトの眼差しはとても冗談を言っているような感じではなく、本当に今すぐ目の前にアイテムを出してきそうでもある。
「だいぶ戦って少し疲れたし、宿屋に行こうか、ナツキ」
(やっぱりーっ)
 ナツキは内心で焦った。またセックスの時間がきてしまった。
「いいアイテム持ってるんだ。ちょっと使ってみないか」
(あぁ、やっぱりーっ)
 本当に持っていた。そうだろうと思ってたよ、と内心でナツキは叫んだ。
 メインストーリーを進めていたので、今はロンディンという街にいた。初心者の村からは相当離れた場所だ。リュウトのおかげでやっと遠出できたのだが、やはりそれだけでは済まなかった。
 腕をつかまれ、引っ張られる。有無を言わさない勢いで宿屋へと向かっていく。
 その時だった。
「おい」
 聞き覚えのある声に、ふたりは同時に振り返った。
 スオウが仁王立ちで腕を組んで立っていた。
「探したぞ」
「これは奇遇だな。俺たちはこれから宿屋に行くんだ。一緒にナツキを鳴かせないか」
 リュウトがとんでもない申し出をする。ナツキは内心で激しく焦った。
 スオウは真顔で返事をする。
「いいだろう。誘いに乗った」
「ちょっ、スオウ」
 戸惑い慌てるナツキにはお構いないしで、ふたりで話を進めていってしまう。
 結局ナツキはふたりに連れられ、宿屋へと向かう羽目になった。

つづく

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