悠久の大陸 24

(掲載日:2018年07月20日)

目が覚めたのは翌日の昼で、死んだように眠っていたらしい。
「俺も狂ってたから狂ったようにやってたけど、さすがに疲れた」
辰泰は苦笑しながら、デリバリーの牛丼を食べていた。
「…………」
那月はのろのろと起き上がり、身体がきれいになっていることに気づいた。辰泰のパジャマを着せられている。シーツもどろどろになっていたはずだが、辰泰が取り替えていたらしい。
「リアルはやっぱり疲れるな。ゲームの中だとどれだけやっても疲れなかった気がするんだけど」
「……いや、脳は疲弊すると思う」
喋ったら声がかすれていた。ずっと喘いでいたから喉も酷使されたのだろう。
起き上がる元気がなくて、再びベッドに横たわった。牛丼を食べている辰泰をぼんやり眺めていると、腹の虫が鳴った。
「……おなかすいた」
「なにか頼もうか? いつ起きるかわからなかったから、俺の分しか注文してないんだ」
「……うん」
辰泰がデリバリーのメニューをいくつか持ってきた。腹は減ったが、食欲はなかった。食べたいものがなくて眉間にしわを寄せる。
「カップラーメンもあるけど」
「……じゃあ、それにする」
那月は起き上がろうとしたが、だるくて無理だった。
ゲームの中ではどれだけやっても平気で動けたが、実際はこんなにも疲れるものだったのだ。無理な体勢を強いられたこともあり、あちこちが痛い。酷使された部分もズキズキと痛む。
「しょうゆ味と味噌味とトンコツ味とあるけど、どれがいい?」
辰泰がカップラーメンのパッケージをいくつか見せたくれたので「しょうゆ」と答えた。
「じゃあ、作ってくる」
辰泰がキッチンへと消えた。
那月は深く息をついて、天井を仰いだ。狂ったように辰泰とセックスをしてしまった。ヴァーチャルで覚えた快感を、リアルでも求めてしまった。
今頃になって、脳裏にリュウトがよぎる。
(バレたらすげー怒られそう……)
リュウトとスオウの二人でナツキを共有するという、意味不明なことになっているが、実はとても嫉妬深いのではないかと内心疑っている。
リュウトがリアルではどこの誰なのかはわからないが、この先いつかどこかで出会うようなことはあるのだろうか。
ゲームの中では二人から同時に愛されることも多かったが、もしリアルでもそうなったらどんな感じになるのだろう。
那月はぞくりと震えた。いったい何を考えているのか。変態にでもなったような気分になる。
だが、もう認めざるを得ない。この身体はすっかり淫乱になっている。どこまでも貪欲に快感をほしがるようになってしまった。
(知らなかった頃にはもう戻れない)
はあ、とため息をついた。
カップにお湯を注いだ辰泰が戻ってきた。
「熱いから気をつけろよ?」
スオウだとバレたからだろうか、身体の関係になったからだろうか。いつの間にか辰泰から敬語が消えている。先輩とも呼ばなくなっている。
起き上がった那月はカップラーメンと箸を受け取り、もそもそと食べ始めた。食欲がなかったはずなのに、案外食べられる。
辰泰も牛丼の元へ戻って、残りを食べ始めた。
「……いつから」
「え?」
「いつから俺のこと好きなの」
那月が問いかけると、辰泰が頬を赤らめた。
「初めて出会った時から」
「……結構前だな」
腐れ縁だと思っていたのは那月だけだったのだ。つきまとってくるのを不思議に思っていたが、実は下心満載だったのだろう。
ずっと性的な目で見られていたのだと思うと、変な気分になった。
箸を持つ手も、ラーメンをすする唇も、辰泰からはいったいどう見えているのだろう。そう思うと妙に意識してしまい、わずかに手が震えた。
今さら緊張するなんてどうかしている。
「……大学、さぼっちゃったな」
誤魔化すように那月が口を開く。
「一日ぐらいなら大丈夫だよ」
辰泰が気さくに言う。
(俺はこの先もずっと、辰泰と寝るんだろうか)
誘われれば断らないだろう。でも愛しているかと問われると、それは違うと思う。求められたいだけなのだ。求められて愉悦に浸りたいだけなのだ。
(調子に乗りすぎだ、俺)
モテていることに愉悦を覚え始めている。リュウトからもスオウからも愛されている自分に酔い始めている。初めはあんなに無理矢理だったのに。あんなに嫌だったのに。
いつの間にか、愛されることが当たり前になっている。
(タチが悪い)
自分でも思う。愛されたい、求められたい、でも自分は彼らを愛さない。なんて身勝手な。彼らをいいように利用して悦楽に浸りたいだけではないか。
牛丼を食べ終わった辰泰が近づいてきた。顔を寄せられ、反射的にまぶたを閉じる。貪るような口づけ。
「……ラーメンの味がする」
「……牛丼の味がする」
ふふっと互いに笑った。妙にそれがおかしかった。
「那月、愛してる」
耳をくすぐるその言葉はとても心地よく、だが同時に罪悪感をともなう。
(俺は愛してないから)
頬に口づけられ、ズキズキと心が痛む。
辰泰は勘違いしてしまったかもしれない。こんな風に微笑ましく過ごしてしまったら、勘違いしてしまうかもしれない。
(俺は愛してないのに)
辰泰の顔がまた近づいてきて、唇を塞がれる。愛おしいもののように触れられ、愛おしいもののように口づけられる。
愛されなくてもいい。ただ拒絶はしないで。辰泰の望みはそれだけだ。わざわざそう伝えてきたと言うことは、那月の気持ちはわかっているのだろう。
その後はイチャイチャすることはあっても、セックスにはなだれ込まなかった。那月の消耗を辰泰も理解していたのだろう。夕方ぐらいになると身体もだいぶ回復してきて、那月は帰ることにした。
「じゃ」
「また明日」
「うん、また明日。会えるかわかんないけど」
学年も違えば取っている講義も違うので、同じ大学でも必ず会えるという保証はない。だるさも痛みもまだ完全にはなくなっていないが、自力で帰れないほどではなかった。
マンションを後にし、電車に乗る。その間、那月はずっとぼんやりとしていた。
現実なのに非現実の中にいるような浮遊感。ゲームの世界に長く滞在しすぎていたのだろうか。リアルとヴァーチャルの境目が曖昧になっているような気がする。
なんとか自分の家に着いた。ベッドの中に倒れ込み、そのまま貪るように眠ってしまう。とにかく疲労が強かった。
起きた時は翌朝で、那月はのろのろと起き上がり、大学に行く支度を始めた。

ゲームにはしばらくアクセスをしなかった。平日はやめておこう、金土日だけにしよう。そう心に決めて、大学の講義を受けた。リアルに対応しているうちに、だんだん頭がクリアになってくる。ゲームの世界が遠いもののように感じられるようになり、あのセックスざんまいの日々も夢の中の出来事のように思えてきた。
ただ、キャンパスで辰泰と出会うとそうはいかなくなる。当たり前のように人の来ないトイレへと連れ込まれ、当たり前のようにセックスをした。
脳内だけのセックスしか知らなかった那月に、辰泰は肉欲のセックスを植えつけてくる。否応なく覚えさせられた身体は、日に日に貪欲になり、快楽なしでは過ごせなくなりそうだった。
「那月、しばらくログインしてないだろ」
身体の奥を穿ちながら、急に辰泰が問いかけてきた。トイレの壁に両手を着いていた那月は、ドキリとして振り向く。
「……え」
「今週ずっと、ナツキに会えてないからさ。リュウトには会ったよ。不満そうにぼやいてた。しばらくナツキと会えてないって」
「……ああ、うん……金土日だけに、しようと、思って……平日もやると、勉強に支障が出ると思って……」
「まあ俺は、こうして那月と会えてるからいいんだけど」
そう言いながら辰泰は腰を打ちつけてきた。
「あぁっ……」
「ゲームから離れてた那月に、伝えたいことがあって。那月、原作ファンだったよな。今週末、雪平海咲のトークイベントがあるんだって。年齢も性別も明かされてない原作者のイベントだから、激戦なんだけど、リュウトにコネがあって、行きたかったら連れてってやるって言われて」
「えっ……」
那月が振り向いた瞬間、下から強く突き上げられた。
「んぁっ」
「どうする? 行く」
「……行きたい……」
「イキたいの? 行きたいの?」
「……どっち、も……っ」
熱っぽい眼差しで、那月は辰泰を見つめた。辰泰は荒い息を吐きながら、緩やかに那月の腰を揺する。腰をグラインドさせ、那月の尻の中をこねる。
「んぁ、んっ、ぁん……っ」
「じゃあ、リュウトに伝えとく。ナツキにはゲーム内で会えたことにするから。いい?」
「……んっ、ぅん……ぅん」
那月は壊れた人形のように何度もうなずいた。
トークイベントの場所はどこなのかとか、どうしてリュウトにそんなコネがあるのかとか、気になることはまだまだあったが、那月はたちまち考えられなくなった。リズミカルに腰を叩きつけられ、あまりの気持ちよさに脳が溶けそうになる。
どこをどうすればより感じるのか、辰泰にはすべて把握されてしまっていた。那月の前立腺はもはや自分のものではなく、辰泰のものだった。ガツガツと突き上げられ、気が遠くなってくる。
「うっ……ふぁっ、あぁっ……あっ」
「まだイッちゃダメだよ、那月」
辰泰はそう言って、焦らすように動きを緩やかにした。最も感じる場所を避けて、違う場所を突き始める。
「や、だぁ……っ、焦らさ、ないで……」
「いい場所突いてほしいの? 那月のカラダはエッチだなあ」
辰泰は嬉しそうにそう言うと、ますます焦らしてきた。我慢できなくなった那月は、自分から腰を動かし、辰泰の股間に尻を押しつける。軟体動物のように揺れる那月を、辰泰は満足そうに眺めた。
パチュパチュと音を立てながら、那月は自分の欲望を追いかける。わざと動かなくなった辰泰の肉茎を、自分で抜き差しする。いいところに当たった瞬間、びりびりと電流に飲まれたようになり、しばし動けなくなった。すると、辰泰が那月の腰をつかんで、追い打ちをかけるように突き上げてくる。那月はびくびくと全身を震わせた。
「うあぁああぁ……っ」
絶頂と同時に下腹部が弾けた。飛び散った白濁でトイレの壁を汚してしまう。それでも容赦なく辰泰は背後から貫いてきて、前立腺を突かれるたびに、まだ残っていた白濁が先端から飛び散った。
「リュウトからイベントの詳細を聞いたら、那月のスマホにメッセージ送るから」
「……はぁっ、はっ……はぁっ、ぅん、わか……った」
もう何の話だったのかもよくわからなくなっていたが、那月は素直にうなずいた。
辰泰はずるりと那月の中から抜くと、まだ達していない怒張にトイレットペーパーをかぶせて握った。
「……中に、出さないの……?」
怪訝に思った那月が問いかけると、辰泰が笑った。
「ここで中に出すと後が大変だからさ。今度、俺の家でする時にたっぷり中に出してやるよ」
聞いた瞬間、那月は頬を赤らめた。中に出される快感を思い出してしまい、体内が疼く。今したばかりだと言うのに、なんてあさましい身体なのか。自己嫌悪に陥りつつも、同時に甘美な感覚が蘇り、那月は思わず下腹を手のひらで押さえた。
もはや快楽から逃れられない身体になってしまった那月は、むしろ辰泰を待ちわびるようになっていた。自慰などでは届かないすさまじい悦楽を、彼は容赦なく与えてくれる。
後始末をし、個室から出た。手洗い場で手を洗い、身なりを整える。
鏡に映る自分を眺め、那月は不思議な気持ちになった。こんな顔だったろうか。目元にも口元にも妙に色香が漂い、まるで娼婦のような顔だと思った。セックスの直後だから、こんな風になっているのだろうか。
「那月」
トイレから出ようとしている辰泰から呼ばれ、那月はハッとした。
キュッと唇を引き結び、気持ちを切り替える。卑猥な顔で講義を受けるわけにはいかなかった。

つづく