悠久の大陸 21

(掲載日:2018年06月16日)

「……また、びちゃびちゃだ……」
 起き上がった那月は、吐精で股間が大変なことになっているのを嫌そうに眺めた。
 度重なる絶頂で頭がおかしくなりそうだ。何か別の生き物に作り変えられている気分だった。
 服を脱いで股間を綺麗にして新しい服を着る。はぁ、とため息をつきながら時計を見た。まだ日曜日の朝だ。
 空腹を満たすために那月はカップラーメンを作り、久しぶりにテレビをつけて、もそもそと食った。自分で身体のあちこちに触れてみるが、感度があがっているようなこともない。あれはあくまでもゲームの中だけの感覚なのだ。
 ヴァーチャルであんな気持ちいいセックスばかりしていると、リアルではできなくなりそうな気がしてくる。
(勃つのかなー俺)
 カップラーメンを食べ終わってから、ズボンと下着をずり下ろす。萎えた股間をそっと握り、ゆるゆると刺激を与えてみた。
(……あれ?)
 硬くならない。刺激が足りないのだろうか。
 リュウトとスオウにいいようにされていた時を思い返してみた。すると、みるみる手の中のものが膨れ上がる。
(うあー……マジかよ)
 二人からめちゃくちゃに犯されていた時を思い返した。痛いほど手の中のものが硬くなる。
(嘘だろ。マジかよ……っ)
 那月は熱に突き動かされるように、手の中のモノをしごいた。
「あっ……あっあっ……」
 慌ててティッシュで尿道口を塞ぐ。ビクビクと全身が震えた。
「ぅあっ……はっ……はぁっ、はぁっ……」
 イッてしまった。二人にやられているところを思い出しながら。
「……やべぇ。俺、やべぇ。マジでヤバイ……」
 さああああっと青ざめる。このままではまともな生活が送れなくなってしまう。
「ゲームはしばらく控えよう。そうしよう。正常に戻さないと」
 那月はしばらくログインしないことを心に誓った。

 月曜日になり、大学へと向かった。まだ頭のどこかが変になっているような気がしていたが、それをなんとか振り払いながらキャンパスの敷地内へと入る。
 リュウトとスオウとのセックスにはある種の中毒性があり、またあの感覚になってみたいような欲望が頭をもたげそうになる。何度も脳裏にちらつくあの光景を、那月は必死で忘れようとした。
「先輩、おはようございます」
 いきなり声をかけられ、那月は内心でビクッとしながら振り向いた。高校時代からの腐れ縁の後輩の、富谷辰泰だった。
「……あぁ、おはよう」
「昨日、連絡したんすよ。シカトなんてひどいじゃないですか」
「……ああ、ごめん……忘れてた」
「ひどいなあ」
 責める言葉を放ちながらも、辰泰はそれほど気にしていない素振りを見せる。
 並んで歩きながら、ちらちらとこちらを見るので、那月は思わず軽くにらんだ。
「なんだよ」
「いや、ちょっと見ない間になんか色っぽくなったなあって」
「…………っ」
 バッと那月の顔が赤く染まった。辰泰がびっくりした顔で那月を見つめる。
「……え?」
「いや、なんでもない……今のは忘れろ」
 那月は逃げるように駆け出した。置き去りにされた辰泰はぽかんとした顔で立ち尽くす。
「……先輩」
 それから辰泰は少し意味深な表情を浮かべ、わずかにニヤけた。

 講義の内容が頭に入ってこない。
 那月は教室の席でぼんやりしていた。ゲームのせいで脳が疲れているのかもしれない。ゲーム中は寝ているのではなく、覚醒した状態のまま横たわっているだけなのだ。寝不足なのも那月をおかしくさせている要員なのかもしれない。
 やはり脳裏に何度もあの光景がちらついてくる。リュウトやスオウと快楽に耽っている時や、絶頂の瞬間にボスモンスターに殺された時のこと。思い出すだけで勃起しそうになるので、那月は必死で振り払う。
(数字のことでも考えよう。計算式)
 頭の中で計算式を唱えた。それでなんとか治まったが、これでは先が思いやられる。那月はため息をついた。
 昼になり学食に行くと、辰泰が現れた。
「……またおまえか」
「ひどいなあ。そんなに俺ウザいですか」
「ウザい」
「ひどいなあ」
 そう嘆きつつも、後についてくる。那月が定食を手に席につくと、辰泰も向かい側に腰を落ち着けた。
「で、ゲームはどうですか?」
「えっ?」
 那月がぎくりとして顔をあげた。
「何が?」
「だから、ゲーム」
「……もう、やってない」
「え? やめちゃったんですか?」
「うん。しばらくやめることにした」
「どうして?」
「……ちょっと、リアルとヴァーチャルの境目が曖昧になってきて、自分でもヤバイって思ったからだよ。おまえは? 半年もあのゲームやってておかしくならねえの?」
「俺は大丈夫ですよ。リアルとヴァーチャルの区別はついてます」
「……おまえ、すごいな。俺はなんか……いろいろヤバイよ」
「例えば? どんな風に?」
「やだ。教えない」
 那月が言うと、辰泰がため息をついた。
「セックスってしました?」
 単刀直入に訊かれ、那月がぎょっとする。
「えっ?」
「ゲームの中でセックスできるんです。アダルトゾーンっていう場所があって。はっきり言ってしまえば、俺はそこに興味を惹かれて、あのゲーム始めました。すごく気持ちいいんですよ。ヤミツキになるぐらい」
「……そ、そう……」
 那月は定食を食べながら伏し目がちになる。辰泰と目を合わせたくなかった。変な気分をぶり返しそうな気がして。そうでなくても脳裏に何度もあの光景がちらついているというのに。
「先輩は? しました?」
「……もう、その話はいいよ」
「どうして?」
「嫌いだから」
「何が? セックスがですか? 珍しいですね男でそういう話題を嫌う人」
「メシがまずくなるし、昼間だし、学食だし、他にたくさん人もいるし」
「でも変ですね。先輩、顔も赤くなってるし、目も潤んできてる。呼吸も少し苦しそうですよ。どうしてそんな風になるんですか?」
「…………」
「俺ね、リアルで男としたことないんですよ。リアルでも気持ちいいのかなって夢想したりするんです」
「……おまえ、ゲームの中で男としてるのか」
「いろいろです。男ともするし、女ともするし。セックス自体に興味があるんです」
「…………」
「先輩は? リアルでもやってみたいと思いません?」
 辰泰の手が伸びて、那月の手に触れた。ビクッとして思わず箸を落としてしまう。
「あっ……バカッ、おまえのせいで箸が……っ」
「どうして動揺するんです? ホントは先輩もゲームの中でセックスしてるんじゃないですか?」
「……おまえ、いい加減にしろ」
「そんな潤んだ目で怒られても、全然怖くないですよ、先輩」
 辰泰がにこやかに笑う。こんなヤツだったっけ。那月は混乱する頭で考える。こいつ、こんなヤツだったっけ。
「リアルでも男としてみたいんです。興味本位ですよ。先輩は興味ありません?」
「…………」
 那月は自分の息が熱くなるのを感じた。

「ここなら、どの教室からも遠いから気づかれないと思いますよ」
 午後の講義をさぼって何をしているのだろう。那月はぼんやりと思った。
 男子トイレの個室。今のところ近くには誰もいない。
 どうしてついてきてしまったのだろう。興味本位? あの感覚をリアルでも味わいたいから?
(……ダメだ。俺、頭おかしい……)
 今ならまだ間に合う。断って立ち去ることはまだ可能だ。そうは思うのに、足が動かなかった。
 辰泰が壁に手をついた。那月は壁と辰泰に挟まれる。辰泰の右手が持ち上がり、那月の唇を親指でなぞる。
「キス、してもいいですか」
 那月は返事をしなかった。だが、辰泰は了承を得たような素振りで、唇を近づける。柔らかな感触が唇を覆う。那月は目を伏せた。
「……んっ……」
 舌が入ってきた。那月の舌をつついてくる。観念したように唇を薄く開くと、舌が絡め取られた。
 知っている、ような気がした。この感触をどこかで味わったような気がする。リュウトとのキスを重ねているだけだろうか。スオウとのキスを重ねているだけだろうか。
(……気持ちいい……)
 リアルで男とキスしたのは生まれて初めてだ。ゲーム内でさんざんしてきたせいなのか、驚くほど抵抗感がなかった。
 辰泰の手が、那月の服に伸びる。シャツの胸元が開けられ、胸板がさらけ出された。辰泰は指の腹で小さな突起を押し潰し、親指と人差し指でつまみ、こねるように愛撫する。
「ん……あぁっ……」
 体内がざわざわとして那月は思わず声をあげた。
 辰泰は那月の胸元に唇を寄せると、小さな突起に舌を這わせた。唾液をまぶしながら舌先で撫であげ、押し潰し、吸い上げた。さんざんいじった後で甘噛みする。那月の中で電流が走った。
「ひぁっ……」
「乳首、気持ちいいですか」
 那月は返事をしなかった。自分がこんな風になってしまっていることを、言いたくなかったのだ。
 左右まんべんなく乳首を刺激され、ダイレクトに下半身まで響く。ズボンの中はすでにきつく張り詰めていた。解放されたくてたまらない。だが、まだこの状態を知られたくない。
 辰泰の手のひらが、するっと下腹部に触れてきた。ズボンの上から何度も撫でさすられる。那月は小さくビクビクと震えた。
「きつそうですね」
 辰泰が那月のズボンの前を開け始めた。那月は一瞬手で止めそうになったが、やんわりと退けられた。ズボンが開くと急に股間が楽になる。だが、まだ下着の中に窮屈に収まっており、解放されたくてたまらないのだが、プライドと恥ずかしさが邪魔をして言えなかった。
 はぁはぁと熱い息を吐き出しながら、辰泰にされるがままになっている。彼が誘ってきたからだ。彼が触れてくるからだ。内心で、すべての責任を辰泰に押しつけている。
 下着の上から何度も撫でられた。辰泰の手がするっと滑り込み、張り詰めた怒張を引きずり出される。根元から先端のくびれまで辰泰の手のひらが往復し、根元の袋を優しく揉まれた。再び茎を手のひらが往復すると、今度は先端の丸みをそっと撫でられる。
「口でしてほしい?」
 辰泰が耳元で囁いた。那月は無言のまま小さくうなずく。
 辰泰がその場にしゃがんだ。ためらいなく口を開く様子を、不思議なものでも眺めるように那月は見ていた。
 那月の屹立が辰泰の口に吸い込まれていく。彼は歯を立てないようにしながら、唾液を絡みつかせ、舌を遣いながらじゅぶじゅぶと音を立てて吸い上げた。心得た動きに那月は内心で戸惑う。本当に彼は初めてなのだろうか。それともヴァーチャルな体験を、そのまま現実で試しているだけなのだろうか。
 頬を紅潮させながら、壁にもたれ、はぁはぁと熱い息遣いだけを繰り返す。辰泰は那月の様子を眺めながら、ひたすら愛撫を続けている。那月の腰がガクガクと震えた。
「あ……っ、出るっ……出そう……っ」
「……いいよ。出して。飲んでやるから」
 那月はギリギリまで耐えたが、声が漏れないように自分で自分の口を手で塞ぎ、全身をビクビクとさせた。
「……んっ、くっふっ……っ」
 溢れ出した白濁を、辰泰はためらいもなく嚥下した。その光景を不思議な気持ちで眺めていたが、だんだん頭がすっきりとしてクリアになる自分を感じはじめていた。
(俺、何してるんだろう)
 おかしなことをしている自覚が生まれた。だが、ここまで走り出してしまった今、急に辰泰を退けることもできない。丁寧に残滓まで舐め取る辰泰を、急に拒絶することもできない。
 熱っぽい眼差しが、那月を見上げてきた。
「……今さら逃げるのはナシだよ? 先輩」
 まるで那月の心を読み取ったように、辰泰がそう告げた。

つづく