悠久の大陸 18

(掲載日:2018年04月11日)

「もっと気持ちいい場所、教えてやるよ」
 スオウがそう言って、ナツキの背中に覆いかぶさってきた。これ以上ないほど密着してきたスオウは、前立腺を通り越した先へと硬い先端を滑らせる。
「……あ……?」
 小刻みな震えが止まらないナツキは、違う場所への刺激に戸惑った。
「もっと奥、すごく奥に、S字結腸ってのがあるの、ナツキ知ってた?」
「……え……」
 スオウはナツキの脇の下から腕を回して、しっかりとホールドすると、小刻みに腰を揺らすようにして奥を突いた。ゆらゆらとした動きに酔いそうになりながら、S字結腸の辺りをスオウの先端で舐め回される。ガツガツとした動きではなく、撫でられるような動きだった。
「あ……待って……あ……」
 もともと余裕のないナツキからさらに余裕がなくなる。
 そこには普段は意識しない腸内の窄まりがあり、スオウの先端で緩く突かれると気が遠くなった。
「う、あ、待って……イク……あ、イク……っ」
 ガクガクと全身が震える。臨界点を越えると頭の中がスパークし、ビクンビクンッと全身が跳ねた。
「うぁあぁあぁ……っ」
 もがくナツキをしっかりと押さえつけ、スオウはさらに中を剛直で圧迫する。ナツキはどうにもならないほど収縮する粘膜でスオウを強く締めつけた。
「中にいっぱい注いでやるよ、ナツキ」
 スオウが低くうめき、ホールドするナツキの体内に白濁をほとばしらせた。熱いものに注がれ、ナツキはまたビクビクとのけぞる。
「やぁぁっ、もっやぁ……っ」
 ナツキはぐったりとしてその場に崩折れた。
 その時、手の先に誰かの足が見えた。ギクリとして視線をあげると、見知らぬ冒険者が通過するところだった。何も気づかない様子でナツキとスオウを通り抜けていく。こんな風に誰かが普通に歩く場所であられもなく乱れて嬌声をあげていたのかと思うと、ナツキはたちまち恥ずかしくなった。スオウの魔法で相手からは見えない状態にはなっているが、こちらからは向こうが見える状態では激しく羞恥心が煽られる。
「……気持ちよかった。ヤミツキになりそうだよ、ナツキ」
 うっとりとスオウが言う。
「また俺としようね、ナツキ」
 大きな手のひらでよしよしと頭を撫でられる。きゅんとしてしまうのは、いったいどういう感情なのだろう。
(ダメだ俺……頭おかしくなってる……)
 恋愛感情などないはずなのに。そもそも同性を好きになるはずがないのに。
 脳裏に一瞬リュウトが現れた。ほんのわずかな罪悪感が宿るのは何故だろう。

 しばらく休むと完全に媚薬効果は薄れたようで、ようやく出発できるようになった。ナツキの身体が整うまで、スオウが根気強く待っていてくれたのだが、よく考えたら彼のせいでこうなったのだから、待ってくれて当然と言えば当然だった。
 ウラクの町の役場でクエストの報酬を受け取り、疲れ切っていたナツキはスオウへと振り返った。
「そろそろログアウトしてもいい?」
「ん?」
「俺、疲れちゃった。ちょうど一段落したし」
「じゃあ、その前にキスして」
「……え」
 ここで? と思う間もなく、ナツキの唇は塞がれていた。
 スオウの舌先がナツキの上顎を撫でて、ぞくぞくと震える。幻惑の実の効果が蘇りそうで、ナツキは内心でヒヤヒヤとした。スオウはどういうわけか、ナツキの性感帯を煽るのがとても上手い。ほだされたいわけではないのだが、逆らえなくなってしまう。
(……ダメだ。気持ちよくて変になる……)
 ナツキは恍惚とした表情でスオウの舌を受け入れ、気づけば自分からも舌を差し出していた。公衆の面前なのはわかっているのに、どうにもならない。止められない。
(……気持ちいい……)
 溶けそうだった。まだ先程のセックスの余韻が残っているのかもしれない。
「……なんて顔だよ」
「……え?」
「すごく気持ちいい顔してる。男を狂わせる顔だよ」
「……自覚、ない」
「その顔、あちこちに見せるなよ? 襲われるから」
「……うん」
 自分ではどんな顔なのかまったくわからなかった。
 キスの余韻が残る中で、ナツキはログアウトした。名残惜しそうなスオウの顔が脳裏に焼きついている。

「…………」
 那月は目を開けた。
 装着した機械を外してむくりと起き上がると、やはり下半身が大変なことになっていた。
 ゲームの中で達した分、リアルでも本当に達している。那月はもそもそと起き上がり、下着を新しいものに取り替えた。なんだかちょっとわびしかった。
 ゲームの中でイキすぎて、少し名残惜しい。リアルでしてみても、あんな風に気持ちよくなったりするのだろうか。そこまで考えて那月はハッとした。
「やべぇ。俺の頭おかしくなってる」
 ゲームの世界が濃密すぎて、リアルを忘れそうになっている。
 時計を見ると、まだ土曜日の昼を過ぎたところだった。外食するのが億劫で、カップラーメンで済ませてしまった。ゲーム内での疲労感が強く、そのままベッドで眠ってしまう。
 ハッとして目覚めた時にはすでに夜で、のろのろと那月は起き上がった。
「……やべぇ。廃人への第一歩だぞ、これ」
 腹が減ったのでデリバリーで天丼を頼んだ。完食した後、ふとゲームの機械へと振り返る。あの中に入るとまたセックスざんまいになるのだろう。少し躊躇した。
 スマートフォンを見ると、後輩の富谷辰泰から着信があった。どうやら寝ている間に電話があったらしい。留守電は入っていなかったし、メールもないので、たいした用ではないのだろう。
 このゲームを始めてからまだ二日目なのに、那月は自分が何か違うものに変えられてしまったような気がしていた。
「大丈夫かな、俺」
 ペタペタと確認するように自分の身体を触る。ゲーム内での自分と比べると、それほど性感帯が発達しているようには感じられない。だが、リュウトとスオウにもてあそばれることに慣れてきている自分に、危機感を覚え始めていた。
 部屋の片隅には雪平海咲の小説が十一巻まで置いてある。アダルトゾーンにばかりいたせいで、すっかり感覚がおかしくなっているが、本来この作品にはアダルト要素は皆無なのである。
 冒険活劇がメインのライトノベルだ。作者が男性なのか女性なのかは明らかにされていないが、ゲームの中身があんなに淫らに乱れていて原作者は平気なのだろうか。それとも作者の手を完全に離れて、ゲームが独り歩きをしているのだろうか。
 原作小説の他にも、コミックス版や、テレビアニメ版の悠久の大陸のDVDが部屋に置かれてある。那月がゲーム内のメインストーリーを素直に楽しめたのは、原作ファンだからでもあった。
(スオウは原作読んでないんだっけ……)
 原作を知らなくても遊べるゲームだから、それはそれでいいのだろうが、那月はちょっと寂しい。
(原作読めって言っても、読まなさそうだよな。でもアニメは見たって言ってたっけ……)
 リュウトはどうなのだろう。原作は知っているのだろうか。今度会ったら、話をふってみよう。
 リアルではどうやら身体が正常そうなので、那月は安心して再びゲームを開始した。リュウトもスオウもいないことを願いながら、ベッドに横たわってまぶたを閉じる。

 ログアウトした場所からのスタートだった。ウラクの町の役場の前だ。きょろきょろと周りを見渡したが、リュウトもスオウもいなかった。ホッと安堵しながら役場のクエスト一覧を眺める。まともにゲームができる喜びを噛み締めた。
 よく見ると、料理を作るクエストや、釣りのクエストもある。まだ磨いていないスキルはなんだったろうかとステータス画面を開き、ナツキは確認した。
 性的な数値ばかりが異様に高く、ナツキは内心でげんなりとする。
 アダルト要素を省けば、それ以外は全年齢対象のゲームとほぼ同じだ。
『デルタスタのダンジョンをクリアする』
 一人でダンジョンは危険だろうか。ヒットポイントがゼロになると、モンスターと戦う直前に戻る仕様になっていたはずだ。リュウトやスオウと行動を共にしていたせいで、まだそういう状況になったことはない。
 ヒットポイントがゼロになる感覚を想像して、ナツキはぞっとした。普段コントローラーを握って遊ぶゲームなら、ゲームオーバーになってもただ悔しいだけだが、リアルに体感できるゲームの場合は死を経験するのと同じなのではないのだろうか。
 性の感覚があれほどリアルなのだ。死の感覚もリアルかもしれない。
 恐怖を覚えて、思わず自分の腕を抱く。
「よし、もっと平和なやつをやろう」
 結局ナツキが選んだクエストは、羊毛を刈って布を作るクエストだった。
 ウラクの町の牧羊園には、数多くの羊がわらわらといる。NPCと同じようにプログラムに従って存在している羊なので、どれほど羊毛を刈られてもハゲない。それでも一頭から取れる量は限られていて、その時には別の羊へと移動する。
 羊毛専用のナイフを購入し、ナツキはウキウキとしながら牧羊園へと向かった。羊たちはメエメエと鳴きながら地面の草をはんでいる。
 羊の毛を刈るのはこのナイフ以外ではできない仕様になっていて、そして羊たちを傷つけるようなことも絶対にできない。平和で安全な設計なのだ。モンスターではない動物たちは殺せない。
 ナツキは一頭の羊の前に腰を下ろし、羊毛を刈った。取れた羊毛は自動的にアイテム枠に入っていく。数を確認したかったらステータス画面を開けばいい。
 無心で羊の毛を刈っていたら、ピコンと音がした。
『もうこの羊から羊毛は取れません。他の羊に移動してください』
 電光掲示板のように目の前を文字が流れた。と同時に合成音声で読み上げられる。
 他の羊のところに移動し、また無心で羊の毛を刈る。そんなことをしているうちに、異様に羊毛がたまった。アイテム枠には限りがあるが、同じアイテムなら999個まで持てる。
 どれだけ増えても荷物にならないのがいい。
「よし、じゃあ布を織るか」
 布を織るためには移動しないといけない。ここで取れるのは羊毛だけだ。
 ナツキはウラクの町を歩き回り、糸車と織り機を探す。その途中で高炉を見つけた。このゲームではアイテムや武器も、アイテム合成などで作ることができる。そのためには材料を集めなければならないのだが、今のナツキのレベルではまだ厳しかった。リュウトやスオウなら材料を持っているかもしれないので、アイテムをトレードしてもらえればできるのかもしれないが。
 ようやく洋品店を見つけた。羊毛を糸にしてから布を織るので、非常に手間がかかる。糸車と織り機の前には二人のプレイヤーがいた。どちらも筋骨隆々でいかつい。ナツキは内心で怖気づいたが、勇気を振り絞って近づいた。
 ゲームならではなのだが、一見ひとつしか糸車と織り機がないようでも、プレイヤーの人数に合わせて自動的に増えてくれる。
 ナツキは無心で糸をつむいだ。久しぶりに心が洗われる気分だ。
 糸をつむぎ終え、では次に布を織ろうかと思ったところで、目の前にスオウとリュウトが現れた。
「えっ?」
 二人が同時に現れたことに、ナツキは驚いた。まるで示し合わせたようなタイミングで戸惑う。怪訝な顔をするナツキを見て何を思ったのか、スオウが口を開いた。
「ゲームの中に入ったら、こいつが洋品店の中をずっと見てたから、何かと思って覗いて見たらナツキがいたんだ」
「えっ……?」
 ではずっとリュウトに見られていたのだろうか。声もかけずに?
 考えるだけでも恐怖でゾクゾクとしたが、リュウトは何も言わずにナツキの手元を見ているだけだ。
「え、あの……? 糸がどうか……?」
「いや、ずいぶん手間暇のかかることが好きなんだなと思って」
「え、でも、これもゲームだし。ほら、どんなゲームだって作業ゲーみたいな要素は必ずあるわけだし」
「俺はそういうの苦手なんだ。これからはそういう作業系はナツキにやってもらおう」
「あ、うん、それはいいけど……でも、俺がやるとリュウトのスキルの数値あがらないけど?」
「いいんだ。戦闘にはあまり響かないから」
「そ、そう」
 ナツキが戸惑いながら返事をすると、スオウも口を挟んできた。
「俺も作業ゲー苦手」
「だろうな」
「ナツキ、なんか俺には態度違うな」
「気のせいだろ」
 作業を続けようとしたら、リュウトがナツキの手首をつかんだ。ドキリとして顔をあげると、彼はゆっくりと左右に首を振った。
「中断して、俺についてきてくれ」
「……え……?」
 ナツキは不安そうに瞳を揺らした。

つづく